38話 その婚約ちょっと待ったー!
大きな叫び声とともに白のローブに身を包んだ聖女様が登場してくる。
後ろには当主様とミーニャもついてきていた。
その後ろでは見張りの騎士達が慌てた様子で走ってきている。
「グレイス公爵、お待ちください。
謁見中は陛下の許可がないと何者であろうと入室することは許されていません」
「よい。 グレイス公爵のことだ。
急ぎの用件があるやもしれぬ」
「はっ!」
敬礼した後、騎士達は扉を閉めて持ち場に戻って行った。
「して公爵よ。それと聖女様も、此度はどの様な用件で参上されたのだ?」
「はっ、それでは申し上げます。
王よ、先程聞こえてきたランサー君の婚約について私は異議申し立てを行います」
「ほほう、それはどういうことだ?
わしはすでに娘と約束しておるし、当人同士が了承していると聞いておるのだが。
それに加えてなぜお主が口を挟んでくるのだ?
お主とランサー君には繋がりがないように思えるが」
僕、了承した覚えないんだけどね。
エリカちゃんに目を向けるとあからさまに目を逸らされてしまう。
「その件については先日書状を送らせていただいたはずですが」
国王の鋭い視線が宰相へと注がれる。
「はい、確かにグレイス家より書状が届いております。
王よ、申し訳ございません。
新書の信憑性の確認のため背後関係を調べさせていたのですが、そのせいでお伝えするのが遅くなってしまいました」
「そうか、それならば仕方あるまい。
しかし、信憑性を確認する必要があるということはよほどのことが書かれていたのだな」
「はい。 書状にはランサー殿がラムズ家を不法に追放されたこと、グレイス家でランサー殿を養子として迎え入れること、ランサー殿を聖女様の護衛騎士として推選することのむねが書かれておりました」
陛下は深刻そうな表情を浮かべる。
「そうであったか」
「私としては此度のランサー君の婚約話には親として口出しさせて頂きます。
ランサー君と姫様の婚約は許可できません!」
聖女様が満足そうにうんうんと横で頷いていた。
「なぜだ? お主としては此度の婚約は良いことばかりではないか?」
全くもってその通りである。
グレイス家は公爵家ではあるが、公爵家が皆王家の血を引いている中で唯一ここ何世代かにおいてグレイス家と王族との間で婚姻が結ばれず、王家の血が薄れてきている。
本来ならば僕とエリカちゃんの婚約に賛成すべきところだ。
「確かにそうではありますが、私としては正式な形で我が家を継いで欲しいと考えています」
当主様の発言にその場にいた者全員が固まった。
通常、養子の子はその家を継ぐことはできない。
これは血筋を重視する貴族ならではの考えである。
だから僕は本来、グレイス家を継ぐことなど不可能である。
だがもし養子の子がその家の血筋の子を娶ったとなれば話は変わってくる。
当主様が言った「正式な形で我が家を継いで欲しい」という発言、これは僕と聖女様で結婚して欲しいということだ。
聖女様は顔を真っ赤に染めて頭から湯気を吹き出している。
目は右往左往しながら餌を待つ鯉のように口をパクパクさせている。
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