第2話追放

それから先の事はあまり覚えていない。


覚えているのは教会に集まっていた貴族たち嘲笑われたこと、追い立てられるように教会から出されたこと、バルガンに怒鳴られ,顔を打たれたことだ。


馬車に乗ったあとに誰かに呼び止められたような気もしたが、そのときの僕にそんなことを気にする余裕などなかった。


家に着いてからは自室でずっと机に突っ伏していた。


どのくらいの時間が経ったかわからなくなるくらいのとき,部屋のドアノックされた。


「坊ちゃま旦那様がお呼びです」


恐らくセバスであろう声が聞こえてきた。

行きたくはないが、行かないわけにはいかずセバスに促されるまま歩いていく。


道中で使用人達がコソコソと笑いながらこちらを見てくる。


恐らく今日の成人の儀でのことが伝わっているのだろう。


我が家は伯爵家なだけあって広く、抱える使用人は多い。

だが、今だけは道のりが辛く、いつもよりも長く感じられる。


気を逸らすために外を見てみると美しく色鮮やかだった中庭が灰色のような味気ない色一色で染まっていた。


そうしているうちに豪華な装飾が施された扉の前に着いた。


ノックをするとすぐ「入れ」と短い言葉が帰って来たので扉を開け中に入る。


中では怒りの表情をしたバルガンが待ち構えいた。


「きたか、単刀直入に言おう。今日よりお前はラムズ家の人間ではない。

お前は今よりラムズの姓を名乗るのを禁ずる」


僕は今何を言われたのか理解できなかった。いや、理解を拒んだのだ。


姓を名乗ることを禁じるということは実質的に家を追放されたということだ。


これまでラムズ家の人間として亡き母のために座学に武芸に真剣に取り組んできた。


なのにこの仕打ち、僕は到底納得する事はできない。


「なっなぜ、」と声を漏らすと「そんなことお前が一番よくわかるだろ‼︎」と怒鳴り声が帰ってきた。


「精霊が一体も付いていないなど聞いたこともないわ‼︎まさかそんな不出来者が我が家から生まれようとはな、、」


「あそこにはほとんどの貴族が揃っていたのだぞ!そんな中であのような醜態を晒した者などラムズ家の者にあらず‼︎」


今までに見たこともない形相で詰め寄りながら話してくる。


人間には基本、十体ほどの精霊が付いているのが当たり前で一体も付いていないなど前代未聞の事態であった。


「二度とそのツラを見せるな‼︎」


『ヘルファイア』


バルガンは取り付く暇もなく、怒りのままに魔法を放つと僕を部屋から追い出した。


僕はそのまま自室に帰るしかなかった。


道中で兄であるオルガとすれ違う。


オルガは機嫌の良さそうな顔を浮かべながらニタニタと笑いながら話しかけてくる。


「成人の儀で醜態を晒したらしいな。一体精霊が付いていないとはもはや貴様は人間ですらないという事だな。はっははー。さっさと出ていけよこの家畜風情が‼︎」と嘲笑った。


そのあとオルガに押されて壁にぶつかってしまう。


痛みがはしり、怒りが湧いてくるがもはや反撃する気力なく、ぶざまに走り去ることしか出来なかった。


その後も部屋に着くまで使用人達に嘲笑われてしまった。


もはやここにいることも辛くなり、最低限の身支度を整えて家から出てしまった。


それからもとにかく現実から逃れる為に走り続けて気がつけば薄暗い路地裏で寝てしまった。


夢では優しかった母に寝かせられ、「貴方は自分の生き方を貫いて幸せになるのよ。」と言われてしまった。


昨日のことが夢だと願って目を開けたが目の前には暗い路地裏と徘徊しているネズミ達が見えて嫌でも現実に戻されてしまった。

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