トロッコの選択
広之新
プロローグ
そこは白昼のホテルの屋上だった。吹き渡る強い風が屋上の砂埃を巻き上げている。どうかすればその風で体が持って行かれそうだった。
今、私の前に一人の男がいる。その顔には深い苦悩の色がにじんでいた。
「やめなさい! こんなことをしてどうなるの!」
私は彼に向かって大声を上げていた。だが彼は黙ったままだ。じっと足元からその30メートル下に見えるアスファルトの道路を眺めていた。彼はすでに柵を越えているのだ。その先はもう落ちるしかない。後ろ手で柵をもって何とか体を支えていた。
やがて彼は振り返った。すでに決意を固めてしまったのか、幾分か、表情が緩んでいた。
「僕は許されないことをした・・・」
彼は柵を手から放そうとしていた。
「はなさないで! その手をはなさないで!」
私は必死に叫んだ。だが彼は柵から手を放した。すると彼の体は強い風にあおられ、その足はコンクリートの床から離れていった・・・。
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