デストルドー

水瀬 由良

デストルドー

 財務官僚が盗撮で書類送検されたとのニュースを見る。

 ニュースサイトのコメントでは、最低だとか、風俗に行けとかそう言ったコメントであふれかえっている。


 しかし、俺にはどこか他人事には思えなかった。確かに最低だろうが、風俗に行けは違うだろう。性欲が抑えきれなくて犯罪に走るなら、風俗に行けは正しい。しかし、犯罪に走る理由が性欲でないなら、風俗に行けは間違いでしかない。


 実際、そのニュースによれば、その人は容疑を認めているらしいが、性欲を抑えきれなかったという話ではないようだった。


 ある人には言い訳に思えるだろう。性欲でないなら、なんなのかと。


 クレプトマニアという、窃盗行為を止められない人がいる。この人達は万引きが止められない。スナック菓子や100均の雑貨を盗む。物が欲しいわけではない。窃盗行為がしたいだけなのだ。


 なんとバカバカしいと思うかもしれない。つまらないことで人生を棒にふるなんて、と。でも、俺にはそうは思えなかったのだ。分からないではない。紙一重の世界に思えた。

 

 クレプトマニアのことはよく分からない。盗撮犯のこともよく分からない。同じ話なのかも分からない。

 しかし、一時的に破滅的願望を抱くことがある。なにもかも捨ててしまえれば。

 かといって、自傷をするほどの勇気もなく、社会的に死ねる犯罪に手を染める。そんな考えが頭をもたげることがある。中にはこの思考に抗えなった人もいるように思えた。


 こんなことを他人には言えない。言ったところで理解されないだろう。言うと狂人扱いされる可能性があるし、距離をとられる可能性もある。だから、話せない。


 それに話してしまえば、歯止めがきかないなるのではとも思う。

 こうした話をしても引かれるだけだ。

 だから、「話さないで」ともう一人の自分が言う。話してしまったら、止めることはできないのではないか。次は行動に至る。破滅まで一直線。


 人にはリビドーとデストルドーがあるという。リビドーは生きたいという欲求。デストルドーは死にたいという欲求。人が人である以上、無意識にあるもの。それが薄い濃いで揺蕩う、危ういものだ。

 

 デストルドーの発露としての犯罪行為。


 俺にその可能性が全くないと誰が言い切れるだろうか。


 それをつなぎとめているのはリビドーを持つ理性という細い糸。

 

 一方の自分が離そうとする糸を必死に持っている自分がいるだけだ。


 離さないで、離さないで、離さないで。

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