いちごうちゃん
月鮫優花
いちごうちゃん
わたしがあのこと最後に話してから、いくら経ったのかな。
わたし達の国と隣の国との間での大きな争いの中、最終兵器としてわたしは生みだされた。
わたしはずっとハコの中にいた。放たれれば隣の国は丸ごと海に沈むだろう。並の動物よりお利口で会話だってできる。その上餌いらずで怪我も病気もしない。
ただ、わたしはひとりぼっちだった。利口なわたしは寂しさでどんどん弱っていった。
それを見かねた研究員の一人がわたしのハコにあのこを入れてくれた。
あのこはわたしに、にごうちゃんとお呼びください、と名乗った。にごうちゃんは、わたしをつくるのに余ったモノを機械で補いながら形にした存在だった。なるほど、それなら確かに2号であるし、互いに親近感や仲間意識を感じやすくて合理的であるなと思った。
にごうちゃんはわたしより遥かに兵器としての性能は劣っていた。けどおしゃべりが上手だった。物語をよく作ってわたしに聞かせてくれた。哲学の話も面白かった。
にごうちゃんはそのほどほどの安全性とわたしのパーツの研究のため、度々外へ連れ出されることがあった。その度また私はひとりになったけれど、決まってにごうちゃんは帰ってきて外であったことを話してくれるのが嬉しくて、孤独ではなかった。外で聴いた歌を教えてくれる時すらあった。一緒に歌っている時間が大好きだった。
わたしは殺傷力が高いからにごうちゃんには触れられなかったけど、それでも大好きだった。
にごうちゃんが来て、わたしと一緒に過ごして1年と7ヶ月ほど経った頃、諸々の研究が進んでしまったらしく、にごうちゃんは戦場に放たれることになった。
「これでやっと、生まれて初めて、あたしは何かの役に立てるの。よかったぁ。」
嘘だと思った。だってそんなの、わたしのことを何もわかってくれちゃいないじゃあないか。にごうちゃんはいるだけでわたしの役に立ってたのに。
まもなくわたしのハコにはさんごうちゃんが来た。今度は身体の全部が機械でできていた。研究価値がないとみなされているらしく、ただわたしと同じハコに閉じこもって限られた話題で会話を繰り返していた。そのうちに一ヶ月でいなくなった。よんごうちゃんがきた。さんごうちゃんより体が小さかった。数十日でよんごうちゃんがいなくなって、ごごうちゃんがきた。よんごうちゃんがより頭が悪かった。そのうちごごうちゃんはいなくなって、ろくごうちゃんがきて……。今はごまんにせんよんじゅうにごうちゃんが一緒にいてくれる。けど、明日も一緒にいられるなんてあんまり思えない。ただ私の孤独を埋めるために作られたこのこらの質は番号が増える度下がっていったし、その分お別れも早かった。何回繰り返してもお別れというものはいつも寂しいのに。
こんなことになるなら、最初から話さないでいられればよかった。
いちごうちゃん 月鮫優花 @tukisame-yuka
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