しぃ~~、へんしんっ

タカナシ

へんしんっ!! できない

 ゴゴゴゴゴッ!!


 地響きにも似た轟音が街中に鳴り響く。


「ガハハハッ!! 我らがノイジー団がこの街を占拠する。ガハハハッ!!」


 巨大な拡声器に手足と頭が付いた明らかに人間ではない怪人が、騒音をまき散らし、闊歩する。

 歩く度にその足音も騒音となる程の音量で周囲をざわつかす。


 あまりの大きな音にガラスは割れ、人々は耳を抑え、その場から動くことが出来なくなっていた。


「ガハハハッ! この星も大したことないなっ! 先遣隊はなぜかやられたようだが、所詮、斥候。このノイジー団一番槍のウォーン様が支配してくれよう!」


 拡声器の怪人、ウォーンは高らかに笑い、その笑いがまた周囲へと騒音をまいた。


「そうはさせない」


 静かな声と共に男がウォーンの前に立ちはだかる。


「なんだぁ、貴様?」


 男は指を1本立て、「しぃ~~」と静かにするようなジェスチャーを取る。


「僕か? 僕は、正義のヒーロ―――」


 ガシャンガシャンガシャン!!


 ビルから落ちて来るガラスが砕ける音で、男の声は簡単にかき消される。


「ああん? なんだって?」


 男は、一度目を閉じてから、仕切り直して口を開く。


「僕は正義のヒーロー、クワイエット。この――」


「ん? 名前を言ったのか?」


 怪人ウォーンが一歩前に出ると足音から騒音がなり、クワイエットの声がかき消される。


「…………」


 クワイエットは何事もなかったかのように、一度クルリと反対を向いてから、軽く小走り、10メートル程行ったところで戻って来る。


 先ほどと同じ位置にまで来ると、指を1本立てて、


「そうはさせない。僕は正義のヒーロ――――」


「もう一回やり直したっ!? ダサいぞ!!」


 怪人の声により再び、クワイエットの小さな声はかき消される。


「ロー、クワイエット。この――」


「おぉい、もうちょい区切りが良いところから、始めろよ! ちょうどヒーローのローのところから聞えなかったが、切りが悪すぎる!!」


「……あの、はなさないでもらっても――」


「え? なんだって?」


 ブチッ!


 何かが切れたような音がひと際大きく響くと、


「テメェ!! うるせぇんだよ!! この拡声器野郎がっ!! ヒーローってのは口上言わないと変身できないんだよ!! ちゃんと邪魔せず言わせるのがセオリーだろうがっ!!」


 ぶち切れた男はそのまま素手で怪人ウォーンに殴りかかり、一撃喰らわせ怯ませた。

 その隙に変身するのかと思いきや――。


「この前のやつらもそうだ。テメェらうるさすぎるんだよっ!!」


 二発、三発とぼっこぼこにし、最後に綺麗なアッパーが決まった。


 空中へ浮かびあがったウォーン。


「ば、バカな。このウォーン様がこんなやつに、いや、こんな終わり方はイヤだぁ」


 空中でそのまま爆散。


「チッ、最後までうるさい奴め」


 正義のヒーロー、クワイエット。未だかつて、彼の変身シーンを見た悪役怪人はいないという。


 こうして今日も彼のおかげで街の静寂は保たれるのであった。

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しぃ~~、へんしんっ タカナシ @takanashi30

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