体育教師は、暗殺者JKに狙われる! だが元特殊部隊なので余裕で蹴散らす!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

暗殺者JK 対 元特殊部隊の体育教師

 校内を見回りしていると、會澤アイザワ ミナが、まだ教室に残っていた。

 なんの用事だろう?

 他の生徒は、もう帰っている。

 ミナもてっきり、友達と帰っているもんだと思っていたが。


「會澤、どうした?」


「んふふ」


 ミナが、俺のところにくねくねウォークで歩いてくる。

 

「せんーせっ……覚悟しな!」


いきなり、ミナが俺の首に足を絡みつかせてきた。

 しかも、ノーモーションからである。

 

「おっと」


 俺は冷静に、しゃがみこむ。


 ターゲットを失ったミナの足が、机にけつまずく。


 手を伸ばそうとしたが、ミナのナイフで警戒された。

 

「なんだってんだ? お前も【刺客】なのか?」


「そうだよ、せんせっ。驚いた?」


「まあな。そんなタイプに見えなかったから」


 逆手に持ったナイフを舐めながら、ミナがオレに微笑みかける。


 俺はさる組織から、暗殺者を送り込まれていた。


 若い頃、その組織を俺がぶっ潰したからである。

 

 その姿は、パッとはわかりづらい。


 生徒だったり、用務員さんだったりする。


 同僚の教師だったことも。

 

「机から降りなさい。會澤」


「おろしてごらんよ、せん、せっ!」


 机に逆立ちになり、伸びた足を俺の脳天へ振り下ろしてくる。


「ほらよ」


 俺はミナの足を掴んで、そのまま背負投げのモーションに入った。


「うわ、ひっど!」


 ブリッジで、ミナは床への直撃を避ける。


「へへーん! おらあ!」


 ブレイクダンスかカポエラの要領で、足を俺の腕から引きはがす。


 コマのように回転して、俺の顔面に蹴りを放った。


 俺は机を蹴り、ミナの足場を揺らす。


「おわ!」


 体勢を崩したミナが、側転で位置を立て直した。


 続いてミナは、椅子を足場にしてヒザ蹴りを放ってくる。


 俺は別の席にあった椅子を持ち上げて、ミナのスネに一撃を食らわせた。


「いったー!」


「お前の動きは、雑さが目立つんだよ。もっと取捨選択をして、必要最小限で動け」

 

 ミナはなまじ、運動神経がよすぎる。そのため、動きが、ムダになりがちだ。

 殺陣師のようなアクロバティックでも、ちゃんと相手を想定しているものである。

 こいつはただ、見た目が派手なだけの行動を真似しただけ。

 そんな動きで俺に勝とうなんて、一〇年早い。

 

「だって負けたら……負けたら、お嫁さんにならないといけないし」


「あ?」


 俺が聞き返そうとしたときだ。


「先生、なにをやっているんです?」


 やべえ。生徒指導の北川先生が。

 

「おお、北川先生」


 俺はミナと、フォークダンスの体勢になった。


「物音がうるさいので、様子をうかがいに来たんですが」


「すいません。体育の授業でフォークダンスがうまくいかないってんで、練習していました」


「そうですか。随分と、派手な練習ですコト」


「はい。机や椅子に当たらないようになるまで、鍛えているんですよ。ですが、まだこのありさまでして」


 ムリヤリごまかしたが、言い訳がましすぎるか?


「まあ、なんと殊勝な。ですが、もう下校時間です。ほどほどになさいませ」

 

「はい。もう片付けますんで」


「では、ごきげんうるわしゅう」


 先生は去っていく。

 

 はーっ。世間知らずのお嬢様バカで良かったー。


「せ、先生」


「なんだよ?」


「離れて」


「ダメだ」


 握った手を、俺は離さない。


「どうして?」


「また襲うんだろ?」


「もう、ケンカ売ったりしないから」


「そうか」


 手を離すと、約束通りミナは襲撃に来なかった。


「片付け終わったな。よし、帰るか」


「待って。せんせ」


「今度はなんだ?」


「ダンスの練習してたら、おなかすいた」


 口止め料か。くっそー。


「わかった。ただし、触ったのは黙ってろよ」

 

 セクハラされたと言われかねん。


「違うって! あんたを社会的に殺したら、あたしが一族に笑われちゃう! 『絡め手でしか相手を殺せない腰抜け』って!」


 ミナの暗殺一族は、「正々堂々と直接的」以外の抹殺は認めていないという。


「今日は見逃してあげる。でもその代わり、夕飯をごちそうしてね。サイゼでいいから」

 

 俺の財布が殺されそうだ。



「ところで、離せよ」


「やだもーん。離さないよ。だから」


 ミナが、頬を染める。


「センセも、離さないでね」

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