アイラの宝もの

風詩蝶

第1話 結斗

21XX年、地球。

結斗ユウトは高校生活最後の一年を謳歌していた。

弓道部に所属しており部長を務めていて、昨年と今年にかけ全国で優勝するほどの実績があり、部員にも頼りにされる存在であった。それでいて、勉学の方も成績トップで生徒会会長も務めていて文武両道。

どこかの漫画で見たような完璧な人間だ。

そんな誰もが羨むであろう日常を過ごしていた彼のとある休日。

その日は、朝から雨が降っていたが、日が傾き、部活が終わる頃には、雨は止んでいて虹が薄っすら空にかかっていた。

それは、帰り道の出来事であった。

綺麗な薄紅色をした夕日を眺めながらいつもの帰り道を歩いていると遠くの方に小さな段ボールが落ちているのが見えた。その中には小さな子猫が入っていた。捨て猫だった。結斗はほっておくことが出来ず、段ボールを抱え歩き始めた。しばらく歩いていると捨て飼い主であろう人が向かい側から走って来た。「拾ってくださったのですね。私は職を失いもう自分が食べていくので精一杯でこうするしかなかったのです。しかし、貰い人がいなかったらと考えるとこの子が可哀そうで気になって見に行こうとしていました。急いで来たものだから、ほら見てください。左右で違う組み合わせのサンダルを履いて来ちゃいました。でも、これで安心です。ありがとうございます。」と女性の方は言った。「何を寝ぼけたことを言っているのですか、あなたは!?こうして心配して見に来ている時点で、この猫に未練が残っているってことじゃないですか?!まだ遅くない、これから一生懸命仕事を探してこの猫と幸せに暮らしていけばいいじゃないですか?この猫との今までの思い出を思い出してみてください。仕事を終えて疲れたあなたを家で癒してくれたのはこの猫なのでしょう?これからつらい時や苦しい時もきっとあなたを傍で癒してくれますよ。」と結斗は笑顔で言って捨て猫が入った段ボールを渡した。そして泣きながら猫に「ごめんね、ごめんね」と言いながら家の方へ向かって言った。その時、女性は道路にある側溝に足が取られ、つまずいてしまった。段ボールが手から離れ2メートル先の方へ飛び、道段ボールから出た猫は道路の真ん中まで放り出され、足を打ち付けたようで痛がっている。そこに左折して来て車は猫に気付かず、ブレーキも間に合わないと察した結斗は猫を助けに走った。猫を庇うように飛び出した結斗は車に足を轢かれ両足を骨折し、頭を強く塀にぶつけてしまい意識不明の状態になってしまった。猫は結斗の両腕の中に抱かれており、両腕の間から顔を出していた。

猫の飼い主は幸運なことにスウェットのポケットにスマホが入っていて、すぐに救急車を呼ぶことができ、結斗は救急車で近くの病院に搬送されて行った。そして結斗は数日経っても目が覚めることがなく、病室の窓際のベットで眠ったままであった。

ある日の夜。

夜空の星が綺麗に輝く中、一筋の流れ星が流れた。

そのとき時計の針は、偶然にも深夜0時を示していた。


結斗は気が付くと、森の中にいた。

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