私想う

@life-in

第1話 「天は二物を与えない」

まずは私が至極矮小かつ平凡な人間であることを断っておこうと思う。

別段、秀でた特技もなければ他者に大きく遅れることもない。言うなれば「つまらない人間」なのである。


そんなつまらない人間だから、ひとを好み、ひとに憧れる。

自分にはない特技や特徴を持つ者、他とは一線を画す何かを持つ者に憧憬の念を抱く。

それはなにも身体的、技能的特色に限った話ではない。その者の人間性や性格、在り方にもまた惹かれるのである。


昔、世話になった友人にTという人がいた。彼は集団の中心でこそなかったが、しかしながらその集団の誰とも密に接していた。平たく言えば「皆と仲良しだった」のである。(当時、誰とも関わらなかった私でさえも彼とはよく話していた。)そして驚くべきことに誰と接する時も「偽ることなき彼」であった。つまり、彼は相手によって態度を変えない。必ず彼のままであった。しかし、それでいながら決して相手に不快と思わせない不思議な力が彼にはあった。

私はそんな彼に憧れていた。彼には私と違い「彼らしさ」があった。ただ、彼のようになりたいと思うと同時に、彼のようにはなれないという確信が私の中にはあった。「こんなつまらない人間が望むべきではない」という諦めがあった。


「天は二物を与えない」とよく聞く。ただ同時に「一物も与えられない、つまらない人間」だっている。であれば、そんな私はどう生きるべきなのであろうか。

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