第30話 神と悪魔の衝突

「せっかちな野郎だな」


 避ける間もなく炎に包まれたと思ったが、僕は無事だった。僕の目の前でウォーラ様が片手で炎の塊を堰き止めている。


「ウォーラ様、すいません。油断はしてなかったのですが」


「まったく。そこで見てろ」


 ウォーラ様はそう言うと、手で抑えていた火球をそのまま横方向に弾き飛ばす。


「何?私の魔法を簡単に弾くとは。貴様は..」


「さあ、悪魔ぁ。私とやろうじゃねーか!」


 ウォーラ様が両手の握り拳を叩き合わせながら獰猛に咆える。全身から神力が迸っている。やる気全開モードだ。


「ウォ、ウォーラさん..」

「・・・」


「お前達も手を出すなよ。ログのとこに避難しとけ」


 突然の出来事に混乱する二人にウォーラ様は避難するように促す。


「ほう。この世界の神に連なる者か」


「ああん?だったらどうした?」


「まだ貴様らとは直接接触したくはなかったんだがな。会ってしまったのならしょうがない」


 悪魔も嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべる。悪魔も戦闘狂らしい。


「名乗っておこうじゃないか。私はハルファス。かのお方にお仕えする悪魔72柱の一柱だ」


「おう、ハルな。私はウォーラ。うだうだ言ってないでさっさとやろうぜ」


 ビキッときただろうね、悪魔さん。ウォーラ様のナチュラル煽りスキルが炸裂した。


「ログさん!大丈夫?」


「無事?」


 ルーとラトリが僕の元に駆け寄ってきた。派手に飛ばされたから心配させてしまったな。


「無事だよ。流石にちょっと効いたけどね」


 僕は戯けて二人を安心させてあげる。


「よかった。それよりウォーラさんって」


「神に連なる者ってあいつに言われてた」


「ああ、あのひとは」


 僕はウォーラ様を見やる。


「灰になるがいい【業火球ヘルフィアボール】」


 悪魔はさきほどの【業火球ヘルフィアボール】よりも更に魔力を込めた業火の塊を作り出し、ウォーラ様に放つ。


「だからそれは効かんって」


 ウォーラ様はバシっと【業火球ヘルフィアボール】を払う。

 僕は唖然とウォーラ様を見る二人に顔だけ向き直り、話を続ける。


様だからね」


「「・・・」」


 ずんずんと悪魔に近づいていくウォーラ様。


「き、貴様!【地獄の雷ヘルエレク】」


 悪魔が続けて魔法を行使する。今度は極大の雷がウォーラ様を上から襲う。雷が直撃する瞬間、


「ふん!!」


 ウォーラ様の全身から神力の衝撃波が発生し、【地獄の雷ヘルエレク】を対消滅させる。


「な、何なのだ?貴様のその力は!?」


 さすがの悪魔も狼狽始める。


「さっきから魔法?ばっかだな、てめぇ。しかもなんだ。こんなもんか?まったくもってわかってない」


 そう言って近づきながら首を振るウォーラ様。そして混乱する悪魔に至近距離まで近づくと、


「ぐぼ!!!」


 顔面に神力が迸る神速の【グーパン】を叩き込んだ。そのまま僕らとは反対の壁まで吹き飛んでいく悪魔。


「ログにやったみたいにちゃんと殴ってこいや!!」


 そう叫ぶと吹っ飛んだ悪魔の元に跳躍し、そのまま倒れている悪魔にマウンティングするウォーラ様。そして、


 顔面を殴る、殴る、殴る。拳を殴りつける度に爆ける神力の衝撃波。


「おい!!私がどんだけてめぇら悪魔と戦うの楽しみにしてたと思ってんだ!?ガッカリさせんじゃねぇぞ!」


「ぐぶ!!ご!!ぶほ!!」


 叫びながら殴打、殴打。段々と速度を上げる拳。早すぎて目で追える速度では無くなり、殴打音だけが鳴り響く。


 ..すでに悪魔は意識飛んでるんじゃなかろうか。僕はウォーラ様の元に駆け寄り、


「ウォーラ様?」


「ああん?」


 どっちが悪魔なのか。返り血を浴びた顔でウォーラ様が振り返る。悪魔の血も赤いらしい。


「もうそいつ気絶してません?」


「あん?ほんとだな。かー、せっかく久しぶりに全力でいけるぜって思ったのによ。大したことなかったな」


 白目を剥いて気絶する悪魔を見ながら残念そうに語るウォーラ様。


「ウォ、ウィーラ様」

「・・・」


 ルーとラトリの二人も近くに寄ってきた。


「ん?どうした?」


「め、女神様だったんですね。そうとは知らず、大変馴れ馴れしくしてしまい..」


「ご、ごめん..なさい」


 二人ともウォーラ様が女神様だと知って、大変畏まってしまっている。ルーなんて今までに聞いたことないくらい丁寧な口調だけどそんなに?


「え、二人とも畏まり過ぎだって。硬過ぎでしょう」


「ログ、これがこの世界の人族の普通の反応だぞ?」


「えー。これは息が詰まりそうですね。二人とも。ウォーラ様にそんな畏まんなくてもいいんだよ。ただの理不尽な女神なんだ——ぐはっ!!」


 言い途中でウォーラ様から神速の拳が飛んできて、凄まじい痛みと共に僕はまた反対の壁まで殴り飛ばされていた。悪魔のパンチより断然痛い。


「痛ぁー。おもくそ殴りやがったなこの、理不尽女神が!」


「ああ?てめぇはまた言いやがったな!さっきも何たらカスなんぞに殴り飛ばされやがって。思い出したら腹立ってきたぞ。やっぱり鍛錬が足りてねぇみたいだな」


「今の話の流れと全然カンケーねーし!くそが!今日こそは凹ましてやらぁ!」


 僕は応戦のために技能スキル【纏い】を発動し、拳に神力を纏わせる。


「ちょ!ちょ!ちょっとストップしてください!なんで二人が戦い始めようとしてるんですか!?」


 ルーが大声を出しながら僕達の間に立ち、止めに入ってきた。


「ルー、僕にも引けない戦いっていうのがあるんだ。止めないでくれ!」


「ルー、そこをどけ。こいつは一度鍛え直す必要がある!」


「このッ!いい加減に!!!!!」


 ルーが叫ぶと全身から強烈な光を放った。


「「目、目がぁぁ!」」



 ..こうして、迷宮での異常調査、僕とウォーラ様の喧嘩は幕を閉じた。


 この後は核の修理をメーティに依頼し、悪魔ハルファスを拘束。そのままクレディオス様の待つ神殿に報告へ行くことになったのだった。

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