第28話 異常迷宮 2

 試作迷宮ダンジョン二号から目的地である山型の迷宮ダンジョンがある山脈の麓までは歩いても1〜2時間程度の距離だ。ここラビス近郊に存在する複数の迷宮ダンジョンはお互い近い距離に点在しているのである。


僕達一行は街道を早歩きで進んでいる。


『それで?どこまで話すんだ?合わせてやるよ』


 移動しながらウォーラ様が【念話】で話しかけてくる。


『質問をもらおうかと思ってます。気になってる部分を中心に答えてあげようかなと。ただウォーラ様が女神であることや魔神の存在などは腰を据えて話す予定です』


『まどろっこしいがそれがいいだろうな。魔神の件は衝撃が強ぇだろうし、調査に支障きたしてもいけねぇし』


『はい、そんな感じでよろしくお願いしますよ、女神様』


『次、おちょくってきたらぶっ飛ばすからな?』


 少し調子に乗ってしまったようだ。気を付けよう。


「ルー、ラトリ。移動しながらで申し訳ないけど君たちが聞きたいことに答えるよ。何から知りたい?」


「そうね。じゃあ、まずログさんって何者?」


 まあ、一番はそこだよね。なんで迷宮ダンジョンに詳しいこととか不思議な道具持ってるんだ?って感じだよな。


「僕はね。実は神様達に協力して迷宮ダンジョンを一緒に管理してるんだ。だから誰も知らない迷宮ダンジョンを知っているし、こうして神様に頼まれて迷宮ダンジョンの調査に向うことになったりするわけ」


「え..神様?じゃあログさんは神官様ってこと?」


「違う違う。僕は神官じゃないよ。たまたま神様と知り合ってそれから手伝うようになっただけ」


 やっぱり神様との繋がりでイメージされるのは神官なんだな。普通の人族と関わりがあるのはテチノロギス様とナレージュ様くらいだ。


「あのコテージとかのアイテムも神様から?」


「技の神様は知ってる?迷宮ダンジョンの管理の手伝いを始めた時にご厚意で作って頂いたんだ」


「技の神様..私達人族に技術を授けてくれてるすごい神」


「そうそう。いい神様だよね」


「いい神様ってそんな気軽に..あ、ウォーラさんとログさんの本当の関係は?」


「私は師匠だ」

「僕は弟子だ」


 ここは即答。事実だからね。


「あ、それは本当なんだね。あとあと、私達のことは出会う前から知ってたの?私達の技能スキルの事、知ってる風だったから」


「君たちのことは知らなかった。ただ、二人の技能スキルを見せてもらった時に気になったから実は神様に聞いてみたんだ。それで内容を教えてもらったんだよ」


「そ、そうなんだ。これって何なの?」

「私も知りたい」


 ルーとラトリがやはり気になるようで質問を続けてくる。でもこれは僕の口からじゃなく、クレディオス様が直接話したいんじゃないかと直感で思った。この間、連れてくるようにーとか言ってたもんな。


「そうだな。それについては直接神様に説明してもらおうかな。僕のパーティメンバーになったんだし、紹介するつもりだったんだ」


「「え..」」


「くくく」


 二人は恐れ多いといった感じの表情になる。ウォーラ様は何か想像でもしたのかニヤニヤしている。


「すごくいい神様だから大丈夫だよ。この問題が解決したらご褒美でも貰いがてら会いにいこうか」


「ちょっと心の準備が..」

「ん。胸を大きくしてもらう」


 そんなこと出来るわけないだろうが。ん?クレディオス様なら出来るのか?いやいやこの話題に触れるのは危険だ。


 街道の先、視界に目的地である山脈が見えてくる。


「もうすぐ着くね。一旦質問は終わりにしてもいい?」


「うん。一番気になってたことは聞けたから大丈夫」

「ん」


「まあ、これが終わったらそれ以外にも色々話せると思うから楽しみにしてて。さあ、山脈が見えてきたよ。少し急いで向かおう」


 僕達は速度を上げて、山脈の麓を目指すことにした。



***



 山脈の麓に到着すると、迷宮ダンジョンの入口前には冒険者と思われる人達がごった返していた。


「おい、中に取り残されたやつはいないか!?」


「わかんね!俺たちもやっとのことで出てこれたんだ!」


 冒険者のパーティがそんな会話を交わしている。どうも中はまずいことになってるようだ。


「すいません!今中はどうなってるんですか!?」


 いま脱出してきた様子のパーティの男性に話しかける。


「あ、ああ。急に幻影ファントムの数が増えてきたんだ。いままでこんなことなかった。手に負えない数の幻影ファントムだ」


 幻影の出現数はコアでコントロールしている。やはりコアに異常があったっぽいな。


「みんないくぞ!」


「おい!危険だぞ!」


 僕達一行は申し訳ないが制止を無視し、そのまま迷宮ダンジョンへと突入する。


 山型の迷宮ダンジョン。ひたすら一本道の山道を進み、山頂のボス部屋を目指す迷宮ダンジョンだ。道は単純だが道中には環境に擬態した蜥蜴タイプの幻影ファントムが多く棲息し、侵入者の進行を阻んでくる。


「こりゃ、やばいや」


 僕は山頂に続く山道を見やる。山道いっぱいに岩蜥蜴ロックリザード達がひしめいていた。念の為、【鑑定眼】で状態を確認する。


ーーーーーーーーーーーー

岩蜥蜴ロックリザード

種族:幻影 蜥蜴種

階位:縺ォ

身体能力:

STR:D VIT:C AGI:D INT:E

神術:


技能:

アクティブ


パッシブ

火耐性

ーーーーーーーーーーーー


 ん?階位の表記がバグってる?


「盛り上がってきたねぇ!!お前ら!蹴散らすぞ!」


「はい!!」


「ん!!!」


 ちょっ!ウォーラ様!?僕がリーダーだよね?呼び止める間もなく、ウォーラ様は拳に神力を滾らせ、跳躍から勢いをつけて地面を拳で殴りつける。円状に神力の衝撃波が発生し、多数の岩蜥蜴ロックリザードを吹き飛ばした。あのひと一神ひとりだけジャンル違くない?


「す、すごい!私だって!」


 ルーは自分の周囲に複数の【光槍】を出現させる。そのまま、岩蜥蜴ロックリザードの群れに向かって放ち、蹴散らしていく。い、いつの間にそんなかっこいいこと出来るようになったのか。


「【黒い束縛】【闇球】」


 ラトリは【黒い束縛】で群れの下の地面から黒い靄を発生させて捕え、動けなくなったところに無数の【闇球】を連弾で炸裂させていく。え、えげつない。


 ちょっと、僕のパーティの女性陣が強すぎる。これは僕だってぼーっとしてられない。せっかくだ。この機会で絶対モノにしてやるぜ。


 僕は両手に剣を構え、神力を武器に流す。気持ち青白く光る2本のブロードソード。そう、僕はウォーラ様のように神力を纏わせて爆発的な一撃を叩き込む練習をずっと続けているのだ。

 群れに向かって一歩踏み込み、加速。両手の剣で薙ぎ払っていく。横薙ぎを中心に複数の岩蜥蜴を同時に切り付ける。


 体力は十分、歩みを止めず、前へ前へと岩蜥蜴ロックリザードを蹴散らしながら進んでいく。




技能スキル【纏い】を習得したわよ。ログちゃんならきっと使いこなせるわ』


 何匹の岩蜥蜴ロックリザードを倒したのかわからなくなってきた頃にそんな『声』が新たな技能スキルの習得を告げる。ガクッと気が抜けて危うく岩蜥蜴ロックリザードの爪の餌食にされるところだった。

 のありがたーい『声』だ。個人的なメッセージ付き。嬉しくて涙が出そうだよ。


 やっぱり技能スキル化されてたか。技能スキル【纏い】ね。神力を任意の箇所に纏って攻撃力や防御力を飛躍的に強化する。これでさらに効率よく蹴散らしていけるぞ!僕は再度気合を入れて群れに向かっていった。




 僕達は、蜥蜴無双を続けながら山道を進んでいくと視界に幻影ファントムのいない空いた空間をとらえた。


「みんな、あそこセーフティエリア!ちゃんと機能してるみたいだ。一度息を整えよう!」


 僕は、みんなにそう指示を出し、セーフティエリアに駆け込む。


「ふー。すごい数だな」


「さすがにちょっとギリギリだったよ。セーフティエリアがあってよかった」


「ふぅふぅふぅ」


 体力の劣るラトリにはちょっときつかったな。セーフティエリアが生きててよかった。周りを見やるとエリアに入ってこようとするもセーフティエリアの結果に阻まれてもがく岩蜥蜴ロックリザード達の様子が窺える。


「・・・」


「ウォーラさん?どうしました?」


 ウォーラ様は無言で山頂付近を見上げていた。


「こいつらから神力とは違うなんか変な気配を感じてたんだけどよ」


「そうなんですか?確かにステータスの表記はおかしかったです」


「その濃い気配が山頂の方から漂ってんだよ」


 やはり、山頂か。間違いなく何かあるな。


「わかりました。もうすぐ山頂です。気を引き締めていきましょう」


 僕は再度気を引き締めて、山頂を目指すことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る