Pixel~人生やり直そうぜ兄弟。よく見ろ目の前の彼女を~

大月クマ

しっかりつかまえてろ

 さあ何が見える?


 なにッ!? 真っ暗だ?


 目を開けろ。開けなければ、暗いに決まっている。


 えッ!? 目は開けている。それは失礼した。そんなに細目だとは思わなかった。


 瞳がほとんど見えないが、本当に目を開けているか?


 ああ……分かったちゃんと目を開けているんだな。

 見えないのは、認識していないからだ。

 少し手を動かしてみないか? 人間には五感がある。

 視力が働いていないのなら、触角を使って世界を見ればいい。


 さあ!


 何かに当たった?

 そうだ、いいぞ。感じろ……何に当たった? そうだ、机だ。

 イメージ出来たか? 木の机だ。ほら、○○時代に図書館にあったような大きな木の机だ。見えるだろ、本を積み開けて勉強しているところを――


 そうだここは、図書館だ。

 君の学んだ学校の……なに? 学校の図書館にはあまり行かなかった?

 そんなことはどうでもいい。君が足を運んだ図書館が、市立だろうが、県立だろうが――


 この世界はイメージだ。見て、聞いて、感じて、嗅いで、味わって――


 イメージが大切だ。

 今は、残念ながら卒業の日。朝は寒かったが、昼間は暖かい3月の昼下がり。外からは小鳥の鳴き声に、本の薫りにつつまれ、雪解けの暖かい日差しが差し込む静かな図書館にいる。


 周りには何がある? さあ、よくイメージ観察してみなさい。

 本の詰まった本棚が建ち並び――おや、前にいる可愛らしい子は誰かな?


 君の通っていた学校の制服を着ているぞ?

 よく見てみろ、君が卒業の時にもらったアルバムを抱えているじゃないか。

 ひょっとして、君が学生の時に思い焦がれていた人かな?


 なに? 自分にはそんな人はいなかった?

 寂しいことを言うんじゃない。いや、君は言葉では否定するが、心の中では彼女の姿を追い、匂いを味わっていただろ?


 知っているのだよ――


 すべてはお見通しだ。そしてここが、君の人生のだ。


 そんなはずはない?

 いやいや、すべては君が感じた事だ。すべて君の五感で味わったことだ。

 味わっていた事をイメージ認識したんだ。


 それは本当のことだ――


 記憶し、認識した。それがすべてだ。今まさに現に実際こうあった――それ以外に証明できることはあるか? いやいや、これを偽物と証明できるかな?


 わたしが、君を誘導したと? 作られたことかもしれないだと?


 今、君が感じていることが、本当であり、過去なんて証明が出来ないのだよ。

 たとえは、君のアルバム。途中で事故をして死亡した級友が載っていないが……


 なに? そんな級友はいなかった?


 本当に――?


 果たして本当に、そんな人物はいないと言い切れるかね?

 まあ、親族親友が悲しみたくないからと、アルバムに載せなかったのかもしれない――。または、その事故の犯人が別の級友だったかもしれない――。はたまた――


 すまない、可能性の話をして悪かったね。

 でも、わたしの質問の証明は出来なかっただろ。事故で消えた級友――ひょっとして、病死だったかな? いやいや、これはのかもしれない――


 この現実はそれだけ曖昧だということだよ。


 ――だがな、少年よ。今、目の前で起きていることは実際だ。

 目の前で、はにかんでいる彼女に声をかけるのは……少年、君なのだよ!  



〈了〉

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Pixel~人生やり直そうぜ兄弟。よく見ろ目の前の彼女を~ 大月クマ @smurakam1978

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