第2話 いつも通りのパステル屈強さんと、天使のポ
「んっく、んっく、んっく、・・・・ぷは~~~!ごちそうさまでした!美味しかった!」
朝は、甘めのホットミルクに限りますなあ。
俺はいつものように、豪快にミルクを飲み干してご馳走様でしたをした。
そして、スリッパの上から微妙におしりをくっつけてくる、ちくわぶを足の先で優しくうりうりした。
ワンコの習性なんだろうか。ちくわぶは、俺が家にいると、なぜかよくおしりをくっつけてくるんだ。なんで?
「ふふふ、お粗末さまでした。坊ちゃん、口元にかわいい牛乳のおひげができてますよ」
そう、優しく言って俺の口元をそっとぬぐってくれたのは、母ちゃん・・・ではなく、パステルピンクのエプロンを身に着けた、筋骨隆々なお兄さん。
「さあさあ、表に、雅孝様のお車がお着きになったそうですよ。お仕度してまいりましょうね」
そう言って、歯磨きセットを差し出してくれるのは、パステルブルーのエプロンを身に着けた、筋骨隆々なお兄さん。
「おやおや、今日はまた、前衛的な寝ぐせでございますね。可愛らしくてもったいないので心苦しいですが、このやんちゃな前髪は直させていただきますね」
そして、歯磨きの完了した俺に、そっと近づくのはパステルグリーンの筋骨隆々のお兄さん。光の速さで俺のぴょいん!ってなっていた前髪の寝ぐせを直し、学校の帽子を被せ、制服を整えてくれる。
うん、いつも通りの光景だ。
朝起きたら、いきなり小学生になっていたから焦ったけど、いまのところ小学生のころに時間が戻っちゃってるのを除けば、なんにも異常な所はない。
俺が『屈強さん』と呼んでいる、このマッチョガイたちは、交代でうちの家事や警備をしてくれているみなさんだ。
俺がなぜだか、あんまり誘拐されかけるから、幼稚園に通ってたころから屈強さんたちが来てくれることになったみたい。
ちなみに彼らの服がパステルカラーで統一されているのは、最初、黒スーツサングラス屈強だったみなさんを怖がった俺が泣いたからだ。すぐに配慮されて、パステル屈強さんになった。
あらゆる分野のスペシャリストが、24時間優しくたくましく見守ってサポートしてくれるので、もう家族の一員だと俺は思っている。
って言うと、だいだいの友達は「え、なに、お前んち、どんだけ金持ちなの!?」って驚かれるが、うちは普通。父ちゃんも母ちゃんも一緒に、駅前でお弁当屋さんをやっている。
屈強さんたちは、#雅孝__まさたか__#んち・・・#東雲__しののめ__#家から雇われて派遣されてるんだ。
両親はめちゃくちゃ断ったらしいんだけど、東雲パパと雅孝に懇願されて、ゴリ押されたんだってさ。
なんていうか、心配性だよね~。
まあ、雅孝もめっちゃ攫われそうになるもんね。
一回いっしょに歩いてたら、血走った目のお姉さんに俵かつぎにされて連れていかれそうになって、物陰から駆け付けた屈強さん達に一瞬で取り押さえられてたし。
雅孝はいわば攫われの先輩、スペシャリスト。お任せしておけばバッチリだよな。
「おっはよ~!お迎えありがとう!」
玄関までお迎えに来てくれていた雅孝に、よっと手をあげて挨拶する。
「おはよう、みっちゃん。・・・わあ、制服、すごく似合ってるね」
#東雲__しののめ__##雅孝__まさたか__#。同じ年の親友だ。
フランス出身のママさんゆずりの明るい金髪に、空色のきれいな瞳。バラ色のほっぺと唇。まさに天使みたいな超絶美少年である。
ただ、俺とおんなじで、こいつもやっぱり幼くなってる。後の、視線一つでバタバタ気絶者が出ることで有名な魅惑の大天使である。
そういえば、以前お菓子のパッケージに印刷されてた天使のキャラクターにそっくりだ!て言ったら、
「みっちゃんのほうが、僕よりよっぽど天使さんみたいだよ」
とか、ちょっと意味がわかんない事を言ってたっけ。うん、こいつ、ちょっと変わってるんだよね。俺なんて、髪も目もまっくろくろじゃん。全然天使っぽくないじゃん。この天然さんめっ。
ていうか、「みっちゃん」っていうちっちゃいころの呼ばれ方、なつかし~。
「お前も制服、めっちゃ似合ってるぞ~!俺たち、今日からお兄さんだな!小学校でもよろしくな~」
小学校に上がった時のあのわくわくする気持ちを思い出して、俺は、両手を握りこぶしにしてグータッチの姿勢をとった。
すると、雅孝ははにかみながら同じように両手をグ~にし、ちょんちょんとリズミカルにくっつけてグータッチしてくれた。
げんこつの正面に側面に。俺たち親友だから、独自のグータッチを編み出したんだよな。
そして、いつもの、ハグからのお互いのほっぺにちゅっ。
恥ずかしいんだけど、雅孝はママが欧米出身だもんな。そういうもんだと雅孝にやたら力強く言われて、毎朝するようになったご挨拶だ。
そのくせ、他の友達とかにしようとすると、見た事ないくらい怖い顔の雅孝に怒られたんだよな。親友限定なんだってさ。
「あ~、お可愛いらしい坊ちゃまがた・・・尊い・・・」
お見送りに出て来てくれたパステル屈強さんや母ちゃん、姉ちゃんがなぜか胸を押さえながらプルプルしている。変なの。いつも思うけど、どういう反応なの、それ。
走り出した東雲家の車の後部座席。ぐりぐりと雅孝に懐かれながら学校に向かった。
シートベルトの関係で、今は諦めてくれたが、走り出す前に雅孝はお膝の上に俺を座らせたがって、運転手さんともめた。
雅孝や東雲パパは、どうやら特定の人を膝に乗せたくなる習性をもってるみたいで、隣に座るとちょいちょい乗せられそうになる。なぜか、雅孝は俺を。東雲パパは、うちの父ちゃんを。
恥ずかしいから基本は俺も父ちゃんも断ってるんだけどね。これも欧米だからかな。
「どうしたんだよ、今日は随分甘えん坊さんだな?」
雅孝のパワフルなおでこぐりぐりに、ほっぺを変形させながら話しかけた。
「だって、今日からみっちゃんとクラスが別々になっちゃうんだよ。寂しいよ」
雅孝がちょっと口をとんがらせて、すねたように言う。
あれ?
まだ入学前だけど、なんでクラス分けの事とか、もう知ってるの?
ん?っていうか、俺、幼稚園から高校まで、たしかず~っと雅孝とはおんなじクラス、隣の席だったはず。
席替えでくじ引きするときにだって、先生がくじを引く前から最初にあらかじめ俺たちの席を黒板に書いていて、俺たちは一度もくじを引いたことがなかった。
ずっとそうだったし、そういうもんなのかな~ってスルーしてたけど。
「えっ、えっ、お前とクラス別なの?俺、めっちゃさびしい!」
雅孝と離れるなんて、初めての経験だ。他にも仲良くしてくれる友達はいたけど、なんだろう、この喪失感。
・・・っていうか、なんで?なんで急に、前回と違う展開になっちゃったの?
「・・・雅孝と、一緒がよかったな」
寂しくつぶやいて、こてん、と俺からも雅孝の頭になついたら、はっ、と短く雅孝が息を飲むのが聞こえた。
「ん?どうかし・・・た」
どうかしたのか?って聞こうと思って雅孝の顔を見たら、口元を抑えてプルプルしていた。
「いま、よ、呼び捨て・・・っ」
「あ」
しまった。まだ小学校のころは、おたがい「みっちゃん」「まあちゃん」呼びなんだった。
中学校くらいからどちらともなく呼び捨てになっていたと思うんだけど。
あれ?なにそのリアクション。もしかして・・・
「いやだった?」
心配になってきいてみたら、いつもキリッとしてるあいつが、ポポポポ~ッと真っ赤になった。ほっぺだけじゃなくて、耳まで真っ赤っか!
「いやじゃないよっ!・・・これからもよろしくね、#みつき__・__#っ!」
真っ赤っかなままで、あいつはキラキラの満面の笑顔で言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます