転生したら、オメガだったんだけど!?

@haiji_yuuhi

第1話 俺のシリアスと、ジャムピーナッツバタートースト

 異世界転生ってさ、あこがれるよな。


 ひょんなことから異世界に呼び出されてさ。目が覚めたら、退屈な毎日や平凡な自分とはおさらばして、めくるめくチート&無双ライフ!く~ッ!痺れるぜ!

 死ぬのはいやだけど、そういうのってちょっとロマンあるな~って思ってたんだ。


 けど、さ。


「オメガ・・・?」


 俺から出た声だと思えないような、がっさがさに干からびた声が出た。


「そうです。バース検査の結果、#並河__なみかわ__#みつきくん。君はオメガだということが分かったんだよ。」


 優しそうなおじいちゃんのお医者さんが、馬鹿みたいにぱか~っと口を開けたまま呆けている俺に、そっとパステル カラーの小児用っぽい花のイラストが描かれた小冊子を渡してきた。

 小冊子だけど、結構ずっしりと重い。ページ数が沢山あるやつみたいだ。電化製品のマニュアルか?


「これはね、オメガという性別について、とっても大事な説明が書いてある冊子だから。大切なことが、わかりやすく書いてあるからね。ご家族といっしょに、よく読んでおいてください。さあ、お母さんもどうぞ」


付き添いで来てくれていた母ちゃんが、珍しく神妙な顔で受け取った。


「ありがとうございます。家族で必ず、よく読んでおきます。・・・はあ~、やっぱりねえ」


 いや、やっぱりってなに?っていうか、オメガってなにさ。


「戸惑うとは思うけど、僕も一応オメガですから。わからない事や不安な事はいつでも相談してくださいね。」

え?え?・・・オメガって、不安にならないといけないやつなの?っていうか、オメガってなに?


 死んだときの記憶は正直朦朧としてたから、はっきり覚えてない。

 でも、体育の授業中にものすごく具合が悪くなってぶっ倒れて、意識が浮上するたびに真っ白い天井が見えて、消毒みたいな独特のにおいがしていて・・・朦朧としながら泣きながら必死に名前を呼んでくる両親や姉ちゃんや、親友の雅孝の顔を見上げていた。

 その声を聴きながら、「みんな、泣かないでよ」って思ったのを最後に、また意識がブツンととぎれて・・・

はっと目が覚めたら、いつもの俺の部屋のベッドの上で、お気に入りの怪獣のぬいぐるみ「ガブやん」にぎゅうぎゅうにヘッドロックをかけていた。


 あれ、俺、いつ家に帰って来たんだっけ?

 というか、毎日だっこしてボロボロで、日に焼けて退色していたはずの「ガブやん」のぬいぐるみが、なんだか真新しい。色鮮やかでふかふか。

 起き上がってみたら・・・気のせいだろうか。視点が低い。

 手を開いてみたら、手が・・・ちっちゃい。つうか、幼い?ちっちゃくて、ぽにょっ?


「ふえっ?」


 びっくりして布団をめくってみる。布団も昔使ってた怪獣柄の毛布だった。

 あれ、これ、経年劣化して、中学入るときに泣く泣く捨てたはずだけど・・・。

 そしたら、ちっちゃいのは手だけじゃなかった。体全部が全部ちっちゃくなってしまっていた!というか、若返った?


 とてとてとなんだか短くなった足で鏡の前に行って確認してみたら、そこには小学校入りたてぐらいの頃の自分の姿が。


「おぎゃあああああ!!!?」


 俺はめちゃくちゃびっくりした。腹から、ドスの利いた赤ちゃんみたいな声が出た。


「みつき~?どうしたの、朝からでっかい声出して」


 トントン、とノックして、母ちゃんと姉ちゃんが入ってきた。遅れて、ふわふわもちもちのわがままボディーの我が家のアイドル、チワプーのちくわぶがドアの隙間から突撃してきた。

 あれ?あれ?こいつも子犬に戻ってねえ?ちっちゃくて、ぽにょっ。


「キャウン!クーンクーン!!」


「んぎゃ~!」


 おしりに強めにタックルされて、クッションに倒れ込んだ俺の顔を、ちくわぶがペロペロ嘗め回した。


「んぶう!あはは、やめろっ!いま、俺はすごく大変なんだっ!シリアスなんだぞっ!あははくすぐったい!」


「なによ、元気じゃない。心配させないでよね~」


 姉ちゃんがあきれながら俺とちくわぶをまとめてなでなでモフモフ。くっ、懐かしいな、この感触。

 そういやちっちゃいとき、やたら家族になでくり回されてたっけ。中学に上がる前に、「俺も、もうお兄さんですので、そういうのはちょっと。」と、惜しまれつつおさわりサービスのご対応は終了させてもらったんだけど。


「ふざけてないで、お顔洗って着替えて、朝ご飯食べましょ。今日から小学校なんだから、雅孝くんたちがお迎えに来ちゃうからね」


「ふえっ!?」


 いま、いま、今日から小学校って言った?えええ~?俺、高校生だったはずなんだけど。どういう事?


 ぐううう~~~~。


 これは大変なことが起こっていると、キリリと表情を引き締めた俺のお腹が、完全に空気を読まずに鳴り響いた。

うそ、人間のお腹って、こんな大きな音で鳴ることある?お腹の中どうなってるの?

 俺は恥ずかしくて真っ赤になった。


「ぷっ!あんた、器用にお腹の音で返事してるじゃん!」


「ふふふ!元気ね!さあ、着替えて、早く朝ご飯にしましょ」

 

 助け起こされて、ちくわぶにも「はよはよ!」というように、ぐいぐい鼻づらで押されて、

(んまあ、とりあえず焦ってもしょうがないし、ご飯たべてからにするかあ)

 俺のシリアスは、一瞬で食欲に敗北したのだった。

 ・・・自分の身体に、ちっちゃくなった以外にも大変なことが起こってるなんてことは、この時はまだ知る由もなかったのである。

 ジャムピーナッツバタートースト、う~んまい!

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