第3話 面倒事の予感→

カザドラから「帰っても良い」と言われたとたんにみんなが出入り口のほうへ向かい始める。


しかも、知り合いなんかはいちいち私のところまで来て「おっさきー!」なんて言っていっていったりして、正直うざい。エデルだけは気を使ってか残ってくれたけど、他の人みんな帰ったし。薄情者め。


「ねー、私達さー、何のために残されたのー?」

魔方陣の処理かと思って道具を出したら、陣には触らなくていいって言われてしまった。じゃあ、何だ?


カザドラが小さく咳払いをして、口を開いた。

「本題に入る前に、ひとつ。君たち魔法協会で位を持つものは、国学院で教育に携わる義務を持つだろう」

いきなりなんだ?教育の義務なんて……あ。

「そう、ですね。俺たち位持ちは、年に数回、誰かが特別講師として国学院に招かれます」

それがなにか、と言わんばかりのフィーア、ディノ。


……大体予想はついた。大方、革命者の教育係をうちらの中から選ぶのだろう。

「そうだ、リア。よく分かったな」

「心読むんじゃねえこの創造神(父)が!」

やだな、11分の1+息子の幼なじみバフかかってそう、私。いやいや、流石にそれだけじゃ決めないだろう。


「失礼ながら。リアは何と考えていたのですか?」

「ああ、すまない。君たちに伝えるのを忘れていた。革命者殿の教育係を誰かに頼もうと思っている」

「それなら、リアがいいと思います」

即答!?え、いや、少し悩むとかもなく?即答で私?

「確かに、リアは特別に免除されているのだから、このくらいはやってくれないと。わたくし達だって忙しいのよ」

う、何も言えない。


「でもしょうがないじゃん。私、仕事上顔出しちゃ駄目だもん」

「知ってるわ。だからこそ、よ。わたくし達も、わかっているからこそ普段は何も言わないんじゃない。けれどね、リア。革命者様の教育は表に出るのとは違うでしょう?それに、わたくし達の中で一番年上のリアは、教育係にぴったりだと思うわ」

「……」


確かにその通りだ。革命者の教育は、国学院での授業とは違って表に出るようなものじゃない。普段いろいろ迷惑かけてるし、私が引き受けるのが筋かも。

「リア、やってくれるか?」

「……わかったよ、やる。だけどさ、流石に私ひとりじゃないよね?私忙しいし、ずっと付きっきりではいられないよ」

とはいえ、めんどくさいのを他人に押し付けたいのはみんなそうだろう。私のこと正論で諭したエルフのプリシラだって、面倒そうなもの受けたくないって魂胆見え見えだった。だからせめて、ひとりふたり位は巻き込んでやる。


「なら、俺がリアと一緒にやるよ、教育係。それでいいか?」

あれ、協会メンバー巻きこもうと思ったらエデルが掛かった。まあいっか、ひとりじゃないだけまだましだ。

「分かった。では、革命者殿の教育係はエデルとリア。皆、異存はないな」

この場にいる皆が一斉に頷く。

あーあ、決まっちゃった。もうやるしかないな。こっそりため息をついたのは、きっとばれてないだろう。



「よし、これで解散?」

「ああ」

お、帰れるか?やった、そろそろ地上に出たいと思ってたんだ。地下は嫌いじゃないけど、王城の地下はそんなに過ごしやすい所じゃないし。早く外の空気吸ってリフレッシュしたい。


「……但し」

「?」

「リアとエデルだけは残ってくれ」

「えー」

まーた居残りかぁ。ようやく出れると思ったのに。



「カザドラの馬鹿。何で帰してくれないの?新手のいじめ?」

皆がさっさと帰っていったあと、ついつい愚痴をこぼしてしまった。

ま、ここにいるのはカザドラとエデルと私だけだからいいか。

「まあまあ、そう言わずに。すぐに終わるから」

さっきまでの威厳のある口調ではなく、いつもの優しい口調でなだめるカザドラ。あんまり嘘はつかないし、本当にすぐ終わるんだろう。


「革命者殿に活躍してもらうまで、おそらくまだ2、3年程は時間があるんだ。けれど、それまで何もしないというわけにもいかない」

「別に何もしない訳じゃないでしょ。うちらが頑張って教えるんだし」

突っかかると、苦笑と共に頭を撫でられた。

「いや、そう意味ではなくてね。まず、ふたりにやってもらいたい事があるんだ。聞いてくれるかい?」

何だ、やってもらいたい事って。これ以上何かあるのか。無理難題じゃなければ聞いてやろう。


エデルと目配せして頷くと、カザドラはすぐ話し始めた。

「まずは、革命者殿を冒険者登録する事」

確かに、冒険者登録はしていた方がいいかも知れない。何かあった時に、冒険者だと名乗れるから。基本的に、革命者がいるということは何か大事が起きるということで、変に混乱を招かないように伏せられるもの。代わりに名乗れるものはあった方がいい。


「二つ目に、トゥワイズ国学院の総合科に革命者殿を入学させること。まずはそれだけだ」

これもまあわかる。庶民から貴族、王族まで通う国学院に通うことになれば、いろんなツテやコネも手に入れられるし、知識もつく。いや、知識はうちらで頑張ればいいかもだけど。楽したい。


「え、でもさ。試験は?」

「問題ないよ。あと、国学院内でもサポートはして欲しいから、リアとエデルと……。あと、ジェイドも通ってもらおうかな」

うげ、ジェイドも来るのか。あいつ、苦手なんだよなー。第二王子だからって威張ってるし。

「父上、国学院には寮があるはずだけど、どうするんだ?」

そういやそうだったな。国学院は寮あるわ。革命者ちゃんは寮に入るのか、王城から通うのか、どっちなんだろう。

「基本はここから通ってもらうつもりだよ。リアはどうする?」

「私は寮、入ろっかな。家あるの、郊外だし」

「そうか。わかった、これで解散だ。帰ってもらって大丈夫だよ」


よし、やっと本当に帰れる!

「いこ、エデル」

ぐいぐいエデルの腕を引っ張って、半ば引きずる様に扉まで歩く。

「ちょ、リア!痛い、普通に痛い!」

「あらら」

ぱっと掴んでいた腕を離して、エデルと並んで扉の前に立った。

ゆっくり開こうとする扉のドアノブを掴んで、強制的に開かせる。遅い。

地上へ出る階段を上り終えて、ここで解散!


……しようと思ったら。

「リア様、お兄様、革命者様の所へ向かって下さい」


「……もういい加減……」


帰らせろーー!!!


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