第2話 異世界少女

魔方陣の真ん中に呆然と突っ立って、固まっている女の子。何か言っているふうに口が動くけど、周りの歓声のお陰で全くもって聞こえない。し、私の背じゃ大人達に囲まれている女の子なんて見えもしない。


「何、ここ、だそうだ」

「ああ、確かに」

団長が口の動きを読んでくれたおかげで、女の子が何を言ったのか分かった。

そりゃ思うよな、いきなり知らない場所につれてこられちゃ。


カザドラが女の子に近づいていって、何か声を掛ける。人は捌けたし、歓声も止んだけど、全く聞こえなかった。さては防音魔法でも張ってるな。


続いて、ミーシャちゃんが女の子の前に進み出る。


「初めまして、革命者様。わたくしは、トランスの第二王女。ミーシャ・パレスティスト・エレンズと申します」

「は、初めまして……」


言葉が通じる。……東の国の公用語だな。あそこは過去の革命者が創り上げた国だから、多分その人と同じところから来たんだろう、この子。こちらの言葉が伝わるのは、翻訳の魔法を使っているからか。

「こちらの水晶に、お手を触れて下さいませ。触れた所から色が変わりますが、ご安心を。貴方の魔力を測るだけです」


ミーシャちゃんは、手に持っていた水晶板を女の子の前に掲げて、触れるように促した。差し出された水晶板に、こわごわと触れる女の子。触れた所から、淡い、少し濁った緑色が透明な水晶板に広がっていく。


「あれはなんだ?見たことないな。リア、知っているか?」

「色変わりの水晶。触れた者の魔力の量や質によって色が変わる魔道具」

魔力の量で色が変わって、魔力の質で透明度が変わる。緑色が示すのは、下から二番目だ。

ざわざわ、ひそひそと革命者にしては色がどうたらとか聞こえて来るけど、私としては一番下の青じゃない事が驚き。


水晶板の色が変わりきったところで、ミーシャちゃんが両手を振った。

「ありがとうございます。もう離していただいても大丈夫ですわ」


……え、待って。今水晶持っている人いないよね?何で浮いてるの?革命者ちゃんが浮かしてる?教えられてもないのに?

ミーシャちゃんとか、他の人が浮かしてるとか?そっちの方が問題だな!?魔力を測る道具に他人の魔力混ぜるとかご法度だよ!?


水晶板に集中して魔力の流れを見ると、大臣のひとりが浮かせているのが判明。

「……馬鹿が」

「おやおや、どうした。召喚が成功したのは喜ばしいことじゃないか」

「ヌル。あのね、水晶板よく見てみて」

いつの間にか近くに来ていた魔法協会の創始者、ヌルが気付いていないわけではないだろうけど。一応知らせておく。

「……馬鹿だな」

「でしょー?しかもさ、あのね?浮かせてる奴ね?大臣かと思ったの。けどね、よく見たらね、あいつ、王宮魔法師なの」

「何をやっているんだ」

「別に、水晶に引っ掛かる程度には魔力あるのにねー、あの子」


ふたり揃ってため息をついたあと、ヌルが指を鳴らして浮遊魔法を解く。

ごとりと音を立てて、水晶板は床に落ちた。あーあ、ひび入ってなきゃいいけど。

「……あ」

「あら、大丈夫ですか?革命者様。そろそろ立っているのも疲れる頃合いでしょう。伝えたいこともありますし、わたくしについてきて下さいますか」


ミーシャちゃんが階段に繋がる扉へ歩き出せば、何人かの大臣と共に、ふらふらと革命者ちゃんは彼女に続いていった。

全員出ていったところで、ひとりでに扉が閉まる。一緒に出ていった王宮魔法師に凄く睨まれたのはきっと気のせい。私じゃない。そもそも魔法を解いたのはヌルだ。私じゃない。


「あー、行っちゃったー」

「リアは革命者に興味があるのか?」

軽くからかうようなヌルを小突いて、少し移動した。

別に興味がない訳じゃないけど、下手に興味あるって言って面倒なことに巻き込まれてもあれだ。ただでさえみっつよっつ仕事があるのに。


「さて、これで儀式は終了だ。もう帰ってくれて構わない」

いやにあっさりしてるな、もっと事後処理とか有りそうなものなのに。いや、うちらはただ魔法式の展開と魔方陣の起動、後は儀式の瞬間を見届けるためだけに呼ばれたのかも知れない。


「ああ、魔法協会の面々は少し残っていてくれ。頼みたい事がある」



……はい、フラグ。

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