第8話 昼休み

席替えの後、普段通りに授業が始まった。


始まったのだが……やべぇ、集中出来ねぇ。


視界の端に映るのは、真面目に授業を受ける葉狼はがみさんの姿だ。


やっぱ、かっこいいな……。授業受けてるだけでこんなに絵になるのか……何かこの世の理不尽を感じる。


「次、立花たちばなくん読んでください」


あ、ヤバなんも聞いてなかった。


「え、えっと、メロスは激怒した……」


「立花くん。今は生物の時間です」


まさかの教科から違った。教科書読めとか言うから、てっきり現国かと……えぇと


『五十五ページの三行目』


と、書かれた紙を葉狼はがみさんが机においてくれた。マジ感謝。


そのおかけで、俺はなんとか無事に(?)教科書を読むことができた。


『マジ助かった。ありがとう』


『大丈夫だよ。けど授業はちゃんと聞きなね』


はい、すいません。反省してます……






















昼休みになった。


いつもなら一人でお弁当を食べるか、極稀に愛彩あいかと食べている俺だが、今日は一味違う。


葉狼さんをお弁当に誘ってみようと思っているのである。


普通に授業のときのお礼もしたいし……


「あ、あの葉狼s」


「「「「「「葉狼さん、私とご飯食べませんか!」」」」」


俺の勇気を出した声がけは、押しかけてきた女子によって遮られる。


横に居る俺には一瞥もくれず、葉狼さんの周り人が群がっていく。


おい!!!ちょっとくらい待っててくれよ!なんで隣にいる俺が葉狼さんに声かけるよりも早く、こんな人数周りに居るんだよ!!!


瞬間移動か、または最初からここに居ないと説明のつかない速さである。


あ、見覚えない顔もいる。多分他クラスのやつだ。


クラスの女子ならまだしもお前は確信犯だな。瞬間移動してきたろ、悟◯かお前は。


「は、葉狼さんあの!!!!」


大きな声を出してみるが、一切届かない。周りうるさすぎ。


そんな中、不思議なことに葉狼さんの声だけは透き通るように聞こえた。


「ごめんね、今日は先に約束した人がいるんだ」


周りの女子が次々に落胆の声を上げる。俺もまぁその内の一人であるのだが。


じゃあ結局、声かけれても一緒に食べれなかったんじゃん。


肩を落としていると、俺の腕が誰かに掴まれる。


誰だ?人多すぎて、転びそうになったとかかな。


と、思っていると、周りがやけに静かなことに気がついた。


え?何があった?俺は上を見上げると、葉狼さんが俺の腕を掴んでいた。


は???


「僕、今日は氷真くんとご飯食べるからさ。ごめんね」


唖然としている皆(俺を含む)を余所に葉狼さんは腕を引っ張って俺を教室から連れ出した。























中庭にある小さなベンチで俺はお弁当を持って座っていた。


隣には同じようにお弁当を持った葉狼さんが座っている。


夢にまで見た光景だ……!!一緒にご飯を食べられるなんて!!


……じゃなくて!!


「ちょ、ちょちょっと!どういう事!?なんで急に連れてこられたの???」


「氷真くんが声かけてくれただろ?何か言いたいことでもあるのかと思ってね」


「え、聞こえてたの?」


てっきり、女子の声にかき消されて聞こえてないもんかと……


「皆、ソプラノで歌ってるのに一人だけテノールとかバスが居たら目立つだろ?そういうことだよ」


成る程、葉狼さんがそう言うならそうなんだろう。


「でも、良いのか?無視しても良かったんだぜ?」


「ふふ、そんな事しないよ。だって、氷真くんは僕が将来好きになる人なんだろ?じゃあ、丁重に扱わないとね」


そう言って微笑む葉狼さん。破壊力しかない。


「お、おう」


「あははは、何か頼りないなぁ?本当に大丈夫かい?」


「大丈夫!なんとかする」


「ふーん……」


全然信じてない様子の葉狼さん。いやまぁ、確かに緊張はしてるし、説得力ないかもしれんがな。その反応は冷たくないかい?


そんな俺を余所に葉狼さんがお弁当を食べ始めたので、俺もお弁当箱を開くことにする。さて、今日のご飯は……


「そう言えば、僕に腕引っ張られてるとき、氷真くん顔真っ赤だったね」


ガタッ 


俺は盛大にお弁当を落とした。


「あ〜!!!!!!!」


葉狼さんはその様子を見てクスクス笑っている。


「動揺し過ぎじゃないかい?あーあ、もったいないね」


「葉狼さんのせいだけどな!!!」


「えー、手を繋いだだけだろ?もしかして、初めて?」


その言葉に俺はうつむく。


「へ〜、今時珍しいね」


「そりゃそうだろ。葉狼さんのことがずっと好きだったんだからな!他の人と手を繋ぐ機会なんてなかったさ!!!」


「そうかいそうかい。氷真くんは僕が大好きなんだね。かわいい」


……ハッ、一瞬死んでた。可愛いとか言われても嬉しくないと思ってたが、何か葉狼さんが言うと強いな。


尊さで死にそう。いや、一瞬死んだんだけど。


「そういう葉狼さんはどうなんだよ……」


「僕かい?ま、そうだな数えられないくらいには?キスくらいまでならなんとも……」


「ストップ!ストーップ!!!聞いといてなんだけど過去の男の話は脳破壊なのでのでNGにしとく!!!」


「大丈夫、全員女の子だよ」


「そこは問題じゃないんだよ!!!」


葉狼さんは、結構恋愛経験豊富らしい。ま、まぁこんだけモテるってことは……と覚悟はしてたけど。やっぱそうよね……


「………真……………べる?」


何しても一番最初にはなれないんか……、まぁ悲しい気はするが、しょうがない。一番最初にはなれなくても一番大切にはなってやるよ。


俺は一瞬落ち込んだが高速で立ち直り、葉狼さんの方を向いた。


「葉狼さ……」


「はい、どうぞ」


何故か俺の口の中に、卵焼きが押し込まれた。


「ひゃがみしゃん!?!?」


「ちゃんと食べてから喋ろうね。氷真くんがお弁当落としちゃったから卵焼き食べる?って聞いたのに無視するから。いたずらだよ」


「へ、?ごめんなさい!!!」


やべ、考えるのに夢中で話聞いてなかった!!!そう言えばなんか聞こえた気もするな……


「いいよ、怒ってるわけじゃないし。……ふふっ、僕が食べさせてあげた卵焼き美味しかった?」


その瞬間、俺は葉狼さんにあーんをされたのだという事実を認識し、


「氷真くん!?」


ときめきが胸の許容量を超えて気絶した。無念。




ーあとがきー

すいません!別作品で忙しく……

お待たせしました


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る