葉狼さんはなびかない
磨白
第1話 入学式(地獄)
中学校三年間部活にも入らず、友達ともほとんど遊ばずに勉強し続けて、それでもギリギリで受かった。そんな高校である。
俺がこんなに真剣に勉強して、中学校時代の青春をかなぐり捨てたのか。それには理由がある。
「新入生代表、葉狼来夏」
「はい」
壇上に上がる一人の生徒。柳花高校では、新入生代表挨拶を行うのはその年の入試で一番上の成績を収めたものである。
柳花高校の偏差値は78。日本でもトップレベルの高校で、各県からこの高校を受けるためだけに転校してくる生徒も多い。
つまり、入学できるだけでもエリートなのである。
そんな中で、学年一位を取るものといえばそれはもう天才という言葉では収まりがつかない。
そんな新入生代表に向けられる視線は尊敬……ではなかった。
ここに居る生徒は、頭脳明晰で基本的にプライドが高い。誰もが自分の順位を気にしている。
故に、向けられる視線は敵対心。いかにして自分が学年トップになるのか皆画策している……
静まり返った空気の中、彼女は口を開いた。
「新入生代表の葉狼来夏です。このような場で、皆様にご挨拶させていただけること誠に嬉しく思います」
そう言って、葉狼が微笑んだ、その次の瞬間。
「きゃぁああああああ!!!」
爆発のような悲鳴が轟いた。主に女子の。
そこからの体育館は阿鼻叫喚。葉狼さんが何か話すたびに、黄色い歓声(と呼ぶには大きすぎるなにか)が鳴り響き、髪をかきあげれば興奮でバタバタと何人もの人が気絶する。
まさに、地獄だった。少なくとも入学式でなって良い光景ではない。
予定では五分前後で済むはずだった、新入生代表の挨拶は一時間以上かかり、気絶者多数(先生も含む)で、異例の入学式の延期、ということになった。
自分で言ってて何言ってるか分からないがこれが事実である。
そういえば大事なことを言い忘れたが、
ー俺の初恋の相手はとんでもないイケメン女子なのだー
……ちなみに、葉狼さんはしばらくの間、全校集会などで話すことを禁止されたのはまた別のお話。
それから、なんやかんやあって。やっとクラスに入ることが出来た。
気絶していた人たちもなんとか意識を取りもどし、無事……うん、命に別状はない。ないのだ。うん。うわ言のように
「葉狼様、いえ、あの白馬の王子様はなんて素敵な人なの……」
とつぶやいている以外は特に普段と変わりない。目の焦点あっていない気がするけど……
「はい、それでは一人揃っていませんが。ホームルームを始めましょうか」
何故か一人生徒が来ていないが先生はホームルームを始めた。まだ誰か気絶してるのかな?
先生は特にそのことには言及せず、書類の配布や、学校生活での注意などを行っていった。
「皆さん知っての通り、柳花高校は伝統のある高校です。国内有数の名門校であることも、みなさんが良くおわかりでしょう」
先生の言葉に皆が表情を引き締めた。
そうだ、ここは名門校。大抵の人は自分が叶えたい大きな夢を持って、真剣に勉強してきて、入学したのだ。
先生は皆の顔を見渡し、満足そうに微笑んだ。
「皆さん良い顔です。そう、柳花高校は夢を追いかける場所。そして、優秀な人材を育てる場所です。入学式ではアクシデントもありましたが、動じてはいけません。ここに居る皆さんは将来、それぞれの分野で、日本の将来を背負う人たちなのですから」
そうだ、皆自分の夢を持ってここに来ているんだ。
俺は、初恋の人を追いかけて来ただけだけど、他の人は違う。日本の未来を背負う正真正銘のエリート達なんだ。
せめて、置いていかれないようにしよう。周りの人たちを見回して、俺も心を引き締め直した。
「すいません。校長先生と話してて遅れました」
そんなとき、誰かがクラスに入ってきた。……もしかしてこの声は
嫌な予感がして顔を上げる、それよりも早くクラスの女子たちが反応した。
「きゃぁああああ!」
「え、王子様がうちのクラスに!? バシン(全力ビンタ)ゆ、夢じゃない……」
「ははははははははははははは狼様!?」
動揺しすぎて高笑いみたいになってるぞ……?
てかさっきの話のときの真面目な皆はどこに言ったんだよ!!!!
俺の悲痛な叫びはよそにホームルームをが進行出来ないくらい深刻な状況に陥るクラス。
確かに、葉狼さんはめちゃくちゃ素敵な人だけどさ!!!
頼む先生!!さっきみたいにどうにか皆に気合入れて!!!!
「葉狼さん……かっこいい、ちゅき……」
あ、駄目だ先生の脳が溶けてる。トロットロだ。
「おいこっち、人倒れたぞ!!!!」
「駄目だこいつ。脈がない!AEDを!!!」
無事な男子たちが必死の人命救助に当たっている。流石頭良いだけあって処置が的確だな……(遠い目)
それで、結局このクラスは騒動が収まるまでに2時間程の時間を要したのであった。
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