いきなりパパ

コラム

***

つい最近、俺は父親になった。


それはある日突然、知らない女の子がうちに現れたからだ。


なんでも事情を聞くに、その女の子は俺が若い頃に付き合っていた女性の娘らしく、何かあったら俺を頼るように言っていたようだ。


話を聞いた俺は「そんなの知るか」と思い、すぐに追い返そうとした。


いくら昔に恋人だったとはいえ、とっくに終わった関係なのだ。


どこの馬の骨ともわからない男と作った子供を俺に押しつけるなと、呆れて怒る気にもなれなかった。


「えっ? でもあなたはあたしのパパなんでしょ? ママがそう言っていたけど」


追い返そうとしたそのとき、女の子はそう言って首をかしげていた。


どうやら母親からは、俺が本物の父親だと言われて育ったらしい。


「うちに父親がいないのは、パパがやることがあって遠くに住んでいるからよ」と、ずっと聞かされていたようだ。


まったくもって信じられない話だが、仮に信じるとして、どうして今まで連絡を寄越さなかったのだろう。


子供ができたと言ってくれれば、その責任くらいは取る。


たしかに俺は甲斐性なしで、自分が食っていくだけでも精一杯の人間だが、話してくれればできることはやったのに……。


「はい、パパ。これママがパパに会ったら渡しなさいって」


俺が考え込んでいると、女の子が手紙を差し出した。


早速、中身を確認すると、そこにはこう書かれていた。


“お久しぶりです。この手紙をあなたが読んでいる頃には、私はもう亡くなっているでしょうけど、別に気にしなくていいです。ではいきなりですが、この子は間違いなくあなたの子です。これまで事情があって隠していましたが、私が亡くなった後、あなた以外にこの子を託せる人がいません。というわけで、大変だとは思いますが、お願いします”


そして、最後にこう言葉が続く。


“この子をはなさないで、体を抱きしめて、手を握っていてあげてください”


彼女が死んだのか……。


嘘だろ……。


ショックで立ち尽くしてる俺に、女の子が飛びついてくる。


「泣かないでパパ。あたしがいるから、だから元気出して!」


このときはどうしてこの子が俺に懐いているのかがよくわからなかったが、あとで聞いたところ、なんでもずっと俺のことを話されていたようで、イメージ通りだったかららしい。


そして最初こそ追い返そうとしたが、結局、俺は今この子と暮らしている。


まだまだ事情も経緯もわからないことだらけだし、毎日子育てに追われているが、それほど悪くない生活だ。


なによりも彼女の言葉が――。


“この子をはなさないで、体を抱きしめて、手を握っていてあげてください”


実は俺がずっとしてほしかったことな気がしている。


「じゃあパパ、学舎にいってきます」


今日も娘が出かけていく。


あの子を見ていると、忘れかけていた彼女のことを思い出す。


それだけでもあの子を引き取ってよかったと思えるような気がする。


……のだが、あの子を正式に俺の家族にするため、役所やらなんやらいろいろ手続きはしたものの、やはり問題は生活費だ。


正直いって子供にかかる費用を考えると、今の稼ぎではとても足りない。


いや、むしろこれが良い機会だ。


俺はここから人生を変えていくのだ。


あの子のためにも、自分のためにも、もっとよりよい暮らしを手に入れて、天国にいる彼女を安心させてやらねば。


そう決意した俺は家を飛び出し、仕事探しに向かった。


〈了〉

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