明日から家族、時々その他。

序章

序章





 ぐるぐる、ぐるぐると視界が歪み、かき混ぜられる。マーブル状のそれが元々どのような絵柄だったのか、もう覚えてなどいない。

「カランコエ・ブロスフェルディアナを追放しろ!」

 嗄れた大きな声が木霊する。ガン、とギャベルが落とされて更に声が轟く。追及する声が数多に湧いて冷や汗が流れ出す。声ひとつひとつがはっきりと聞こえているような気がした。止まない雨が針のように鋭く降り注いでいる。指をさされる身体がチクチク、ジクジクと痛む。

 そっと、二の腕と頬に優しい感覚があった。ふわりと花の匂いが広がって頭がクラクラとする。何も見えない。これら儀式がなんなのか、全くもって理解が追いつかなかった。

「大丈夫よ、カランコエ」

 優しい声が前方から降り注ぐ。こつん、とおでこに優しく何かが触れる感覚。さらりと顔の横に輝く細糸が流れる。

「どれだけ多くの人が貴方に奇異の目を向けようと、どれだけ多くの人が私達を否定しようと、貴方のことを愛しているわ」

 するりと、目の前の人物の頬に柔らかな涙が滑った。離すまいというように、背後から二の腕を掴む力が強くなる。喧騒が遠のく。反感の音が嵐のように騒がしい。

 ぐにゃぐにゃと視界が更に変形していく。くるりと、消えていく。





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