第12話 ソフォクレス家の婚約者とは -ソフォクレス伯爵視点-
『嫁取りの占い』
それはある種の呪いでもあり、最大の祝福でもある。
マニエスはまだ、その本当の意味を知らない。だから抵抗があるのも、私も同じ道を通ったことがあるから、よく分かる。
だがそれでも、そこには大きな意味があるのだ。
「……お初にお目にかかります。スコターディ男爵家のミルティアと申します」
緊張気味にそう言ってカーテシーをしてみせた少女を一目見た瞬間、やはりと思ったのは私だけではなかったのだろう。
だがそんな様子はおくびにも出さず、けれどしっかりその様子を観察する。
やせ細った体。サイズの合わないドレス。
澄んだ青のはずが、どこか生気がないような。感情の乏しい色を宿した、その瞳。
申し訳程度に
世辞にも、良い環境にいたとは思えない。
もちろんこちらでも調べさせてもらって、スコターディ男爵家の経済状況は把握している。贅沢どころか、普通の生活すらままならないであろうことも知っていた。
けれど、そうは言っても、だ。
嫁ぐ娘のために、できることならば何でもしてあげたいと思うのが親心のはずだろう。
それが。彼女の装いからは、一切感じられなかった。
(虐げられていた可能性も、
私の妻のように。
そうでなければ……。
「その……私のお相手は白髪のご老人では?」
彼女の口から、そんな言葉は出てこなかっただろう。
むしろそんなことを言われても、逆らわずに嫁ごうとするのは。よほど家が嫌だったのか、それとも別の理由があるのか。
そして同時に。スコターディ男爵家が、我がソフォクレス伯爵家をどう評価しているのか。それも理解できてしまう、一言だった。
「……そうか、なるほど。君はそう聞かされてきたのか」
とはいえ私も、予想だにしていなかったあまりの衝撃に。少しだけ、言葉を失ってしまっていたけれど。
私たちの可愛い一人息子に対して、どんな噂が出回っているのかと。色々な感情が胸の中を渦巻くのを、表には出さないようにして。
「色々と説明が必要そうだね。まずは落ち着いて話せる場所に移動しようか」
彼女に非はない。
だからそう
当然と言えば当然だろう。この髪色は、あまりにも珍しすぎる。
ただここで不思議そうに見つめているだけで、嫌悪感を示さない辺り。やはり我が家に嫁ぐことになる女性というのは、総じてこういうものなのだろうと痛感する。
『嫁取りの占い』で選ばれる女性は、基本的に不幸な人物であることがほとんどだ。
特に生家で不遇な扱いを受けている女性が選ばれる傾向があるようで、我が家の嫡男への偏見がないことが理由ではないかとは言われてきているが。
いずれにせよ、彼女の今までの生活も。幸せとは、程遠いものだったのだろう。
マニエスもまだ知らない、その真実は。あの子が自分で気が付くまで、私の口から話すことはできない。
ソフォクレス家の婚約者とは、そういうものだ。
そしてだからこそ、今までの分を取り返すためにも幸せにしてあげなければならない。
ただ、同時に思う。
私が妻に惹かれたように、あくまで『嫁取りの占い』は、きっかけに過ぎないのではないかと。
見た目に言及されることへの恐れからか。屋敷の中だというのに、ローブを着てフードを目深に被ったままの息子に。
真実を伝えられる日がくるのは、まだまだ遠そうだと。一人そっと、ため息をついたのだった。
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