第5話(累計 第51話) 想定外の再会。

「すいません。荷物は、何処に卸したらいいですか?」


 僕はヴィローを使って、トレーラーに積み込んでいた荷物や資材を降ろしている。

 リリはヴィローのコクピットの中。

 アカネさんは、「大型トラック」の中で微調整。


「では、ここに並べて下さい」


 僕の問いに少年工員さんが、荷物置き場を指示してくれる。

 しかし、そこは駐機場の側の道路。


「はい。ですが、ここからどうやって他の場所に運ぶのでしょうか? 他のトラックとかに乗せるのでしたら、そこまで僕がやりますが?」


「いえ。ここカリレアでは文明の利器はほとんど使いません。その上、僕らは自動車というものの運転方法を知りませんですし。なので、後は僕らの手で荷物を運びます」


 工員くんが衝撃的な事を話す。

 なんと、トレーラーに積み込むほどの荷物をトラックを使わずに人力で運ぶそうだ。


「なら、使う場所まで僕らが運びます。それもダメですか? 人力で運ぶのを、僕は見てはいられないです」

「うん、リリもそれは嫌なの!」


「……。上に一旦問い合わせます。少しお待ちください。もし、良かったら……。向こうにある工場跡まで運んでくれると、う、嬉しいです」


 少年工員さん、かなり遠い目的地を指差ししながらも、一瞬表情を崩し泣きそうな顔をする。

 どうやら普段、人力で重い荷物を運ばされている様子。


 ……どれだけ、日頃大変な事をやらされているんだろう。警備用のE級ギガスもあるだろうから、荷運びに使えばいいのに。


 気になって周囲を見てみるが、自動車どころかヴィロー以外のギガスを見ない。

 警備している少年兵も全て徒歩。


「……リリ。これはなんとかしないと」

「うん」

【私も、これは酷いと思います。とりあえず、今回は私共で出来る事をしましょう】


 僕は、こっそりとリリやヴィローと相談した。


 その後、やってきた上役少年と言い合う工員少年。

 上役は頭が固いのか、文明の利器を使い僕が手伝うというのが許せないらしい。


「君は、委員長様の崇高な考えに反対をするのか? ヒトは機械など惰弱なものに頼らず、己の自然な力のみで暮らすべきなのだ。こんな機械人形など邪魔でしかない! これ以上揉めると『総括』部屋送りにするぞ」


「……分かりました。しかし、今回の荷物は数人がかりでも運べるものじゃないです。せめて運び手を、もっと寄こして下さい」


 上役は連れてきた少年兵に銃を付きつけさせ、工員少年を脅す。

 子供同士で発生する思想・階級論争。

 その不自然さに、僕は悲しくなる。


「すいません。このまま待機しているとギガスが壊れそうなので、とりあえず荷物を運びますね。よいしょ!」


「お、おい! そんな許可は……」


 僕は苛立って、上役少年の話を聞かずに水生成魔導具をトレーラーから持ち上げる。

 そして、そのまま指示されていた工場跡までヴィローの脚を進めた。


 ……こいつ、水生成専用のプラントだから貯水タンクが空っぽでも数百キロもあるんだ。こんなの人力で運べるかどうかすら判断できないとは、上役と言っても大したことないな。


「と、止まれ! 止まれ! 止まらないと、い、委員長様に言いつけるぞぉ!」


 背後モニターには、少年兵を連れて大慌てで走ってくる上役少年が居る。

 彼自身も、上役という「役目」を押し付けられて、まともに教育も受けていないのだろう。


「おにーちゃん。みんな可哀そうなの。どうして、こんな事になるのかなぁ?」


「多分だけど、委員長とやらが権力に酔いしれているんだろうね。貴族支配を嫌って、今度は個人の独裁。まったく人って馬鹿だよね」


【私のデータバンクに、このような社会体制の事を『原始共産主義』と呼称するとあります。人類の生まれた星で、かつて大虐殺をして国を滅ぼした愚かな独裁者が、この政治体制を行ったそうです】


 人類の歴史、愚かな行為は繰り返すらしい。


 僕は誰もが不幸な状況に涙をこぼしながら、荷物を運んだ。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「本当にありがとうございました。おかげで助かりました」


「いえいえ。勝手にやってしまい、ごめんなさい」


 全部の荷物を工場跡まで運んだ僕ら。

 一旦、ヴィローから降りてひと息入れている。

 工員少年は、ぺこぺこと頭を下げ、僕らの行動にすっかり感動している。


 ……上役少年は、ヴィローで少々脅して追い払ったんだ。同じ仕事をするのに、楽しちゃダメってのは変だからね。


「リリ、我慢できなかったもん! あの子たちは頭硬すぎるのよ」


 リリも大きく伸びをしながら、身体を休めている。

 周囲には、小物を整理している子供たちが沢山集まってきた。


「あれ? あの子達は服が違うの?」


「そうだね、リリ。工員さんたちや兵士さんは全員黒い立派な服だけど、あの子達は皆、染めていない布の貫頭衣だよ。あれ? 全員同じ首輪っぽいのがあるね」


 粗末で薄汚れた貫頭衣を着た男の子も女の子も、重そうに荷物を抱えている。

 彼らの首には鈍く鉛色に光る金属製の首輪がめられている。

 そして、周囲には沢山の少年兵が彼らを見張っていた。


 ……あの首輪、どっかで見た事があるなぁ。それに妙に質素な服装。ん、もしかして!


「あ、気になりますか? この子達は、他の街から奴隷として買われてきた子たちです。ここでは奴隷も僕らと同じ仕事をして平等なんですよ。ただ、彼らの所有権は委員長さまにありまして、逃げない様に警備しています」


「そうなんですか。可愛そうですね。ちょうど、僕の妹が生きていたら同じくらい……え!」


 僕の視線を過った女の子。

 リリと同じくらいの年恰好で、この地方では珍しい黒髪、黒い目、白い肌の少女。

 昔、何処かで見たような女の子。


「ナオミ、早くしろ」

「う、うん」


 ……え! ナオミって!!?


 僕は、ナオミと呼ばれた子を見た。

 服や髪、肌も薄汚れ、他の子よりも随分と華奢だけれども、顔立ちは童顔で可愛い。

 そして、少々どんくさい。

 傷だらけの指からポロポロと小物を取り落としては、他の子に怒られている。


 ……記憶の中のナオミとそっくりだ。小さい頃のナオミも不器用だったもの。


 両親が貴族に殺された後、生き別れをした妹ナオミ。

 僕とは別の奴隷商に買われ、そこから先の行方はずっと不明だった。


 ……てっきり貴族連合に買われていたと思ったのに……。まさか、共和国内にいたなんて!!


「ナオミ! ナオミなのか! 僕だ、僕。お兄ちゃん、トシミツだぁ!」


 ……もう、我慢できない! 後の事なんて、どうでもいい。このチャンスを逃してたまるかぁ。


 せっかくの伯爵様による「おぜん立て」が全部無駄になるのを分かっていても我慢できずに、僕はナオミに声を掛けてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る