第33話 リリ視点:エヴァお姉ちゃんの涙。
「おにーちゃんの事、大好きなのぉ」
わたしが、おにーちゃんの事を大好きだと言うと、エヴァおねーちゃんの顔色が変わった。
「どうしてぇ!! どうして貴方は他人を、ヒトをそこまで信じられるの!? どうして道具がヒトを愛する事が出来るの!? ヒトは誰も自分が大事。ヒトじゃないわたし達が大事にされる筈ないじゃないの。だったら、わたしは今までどうして、どうして……」
突然泣き叫びだしたエヴァおねーちゃん。
わたしは、おねーちゃんの過去の「傷」を深く触ってしまった事に気が付いた。
「エヴァおねーちゃん。何かあったの? ブラフマンさん、おねーちゃんに酷い事をしているの!?」
「マスターは、わたしの事を道具として守ってくれているわ。マスターに拾われるまで、わたしは、わたしは……」
すっかり泣き崩れてしまったエヴァおねーちゃん。
わたしは悲しくなって、ぎゅっとエヴァおねーちゃんを抱きしめた。
「貴方! 貴方には分からないわ! ヒトの恐ろしさを」
「うん。おねーちゃんが受けた仕打ち、分からないとリリも思うよ。世界には色んな人がいるよね。おにーちゃんみたいに素敵な人もいれば、人を傷つけても何も思わない人もいる。だから、リリ。皆、良い人ばかりじゃないのは知ってるの」
わたしを、力任せに振りほどきそうになるエヴァおねーちゃん。
でも、その悲しそうな様子を見ていて、我慢できるわたしじゃない!
「ヒトの酷さを分かっているなら、どうしてマスターの言う事を聞かないの? マスターは全ての愚かなヒトを滅ぼしてくれるのよ? 愚かなヒトを貴方は信じられるの? 嫌ならとっとと逃げれば良いの。勝手にしたら良いじゃない? どうして、わたしを離さないの? 貴方、ワガママすぎるわ!」
「わたし、ワガママだけど泣いている子を放っては置けないの! エヴァおねーちゃん、ずっと泣いているんだもん。リリがぎゅーしてあげるの!」
以前、わたしが怖い夢を見て夜泣きしてしまったとき。
おにーちゃんは、ぎゅっと抱きしめてくれた。
そして、そっと頭を撫でてくれた。
……おにーちゃんの暖かさが、とっても大好きなの!
「もう離しなさい! 離しなさいってばぁ。子供扱いしないでよぉ。もう、もう……」
わたしがエヴァおねーちゃんの頭をナデナデしていくと、暴れていたのがどんどん大人しくなっていく。
最後には、わたしに抱きついてきてくれた。
「……貴方、とっても暖かいのね」
「おねーちゃんも暖かいよ。道具じゃない、ちゃんと生きているの!」
しばらくわたしを抱きしめていたエヴァおねーちゃん。
ぽつぽつと過去の事を話し出した。
「わたしの初めての記憶は、イヤらしい男に裸にされて犯された事。その後も、男がやっていた見世物小屋で珍獣扱い。毎晩毎晩、醜く太った腹の下に押しつぶされながら犯されたわ」
……わたしの最初の記憶は、笑顔のおにーちゃん。もし、わたしがおにーちゃんに出会わずにエヴァおねーちゃんを見つけた人みたいな酷い人に捕まっていたら、どうなっていたんだろう。
「わたし、世の中を恨んだわ。すこしだけ姿が違うだけでヒトは差別し、蔑み、そして犯す。快楽のためだけにヒトは自分と違う存在に酷い事をするの」
……おにーちゃん、よく言ってたよね。人は『正義』の旗の下でなら、どんな酷い事でも出来るって。
「そんな時、助けてくれたのがマスターなの。あの頃はまだお年寄りだったんだけど、わたしに酷い事をしていたヒトを全員殺したわ。そして、わたしはマスターの道具になったの」
……ブラフマン、エヴァおねーちゃんを助けてくれたんだ。でも、それは善意だけじゃないよね。今の感じだと。
「マスターは、わたしが眠っていた場所をアイツを殺す前に聞いて、そこに行き、古代の英知を得たわ。そしてその知恵で若返ったの!」
……ブラフマンの話だと、わたしやエヴァおねーちゃんは古代人によって生み出された存在。命を生み出す方法を利用して若返ったのね。
「ねえ、さっきから黙っているけど、わたしの話を聞いてるの?」
「うん、聞いているよ。エヴァおねーちゃんにとってブラフマンさんは恩人なのね」
わたしが黙って話を聞いていると、エヴァおねーちゃんは聞き流しているのかって確認してきた。
おねーちゃん自身、過去の酷い体験をわたしに理解してもらいたかったのだろう。
そしてブラフマンの道具になって、一緒にヒトを亡ぼしたいに違いない。
「そうよ。わたしを助けてくれて、わたしに憎いアイツを殺させてくれたわ」
……やっぱり、トシおにーちゃんとは全然違うの。おにーちゃんは自分の手を汚しても、わたしには絶対にそんな事はさせないもん!
「エヴァおねーちゃん。それ、本当にブラフマンさんはおねーちゃんを大事にしているの? 本当に大事なら間違っても人殺しなんてさせないと思うの」
「愚かモノは殺すしかないの! 猿以下のアイツらなんて生きている意味なんて無いわ!」
「じゃあ、どうして今のエヴァおねーちゃんは泣いているの? わたしはね、おにーちゃんと一緒だと笑ってばかりだよ? おねーちゃん、ずっと笑った顔を見たことが無いの。いつ最後に笑ったの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます