第32話 リリ視点:捕らわれたわたし。

「まだワレのモノになると言わんのか、リリ!? オマエはヒトでは無く人形。人形風情がワガママを言うな!」


「べーだ! わたし、ぜーったい貴方の言いなりになってならないもん! 戦争で喜ぶような人なんて、だーいきらい!」


「リリ。マスターの言う事を聞きなさい。貴方は、もうここから出られないんだから」


 わたしリリ、皆を救うためにブラフマンの言う事を仕方なく聞き、彼のアジトへ連れてこられた。

 そして、今はあてがわれた豪勢な部屋、いや座敷牢に囚われている。


 ……約束破る人は、だーいきらい。やっぱり、移動中にコクピットを破壊しておいた方が良かったって思うの。


「……いつまでも、オマエのワガママを許すとでも思うのか? 迂闊に洗脳すれば魔法能力を失いかねぬし、身を汚す犯す事も『鍵』の資格を失いかねぬ。事情があって、手出しされない今の状況なのを忘れるな!? くそぉ」


 ブラフマンは、わたしに言う事を聞かせられないから怒ってばかり。

 酷い事をして無理やり抑え込むことも出来ないから、余計に苛立っているのだろう。

 しかし、わたしも魔法を封じる腕輪を付けられているから、ブラフマンに反撃は難しい。


 ……けど、この魔封じの腕輪。わたしが本気出したら壊れそうなの。と言って今腕輪を壊して逃げても、おにーちゃんと合流できないし。


 戦場から空間転移してきた上に途中も空を飛んで来たので、わたしが今いる現在位置が何処なのか分からない。

 出歩ける許可を貰っている屋敷内の窓から見える風景や屋敷で働く人の数とかを見る感じ、何処かの大きな街の中にいるらしい。

 多分、貴族連合の奥深くになるのだろう。


 ここから逃げ出しても、砂漠をわたし一人で越えてラウドまでいく事は不可能。

 今、しばらくは大人しくしておくべき。

 いくらアホ娘って言われているわたしでも、頭を使う事もあるのだ。


 ……ここに、おにーちゃんが迎えに来るのも大変だよねぇ。わたしの居場所をおにーちゃんや知らせる方法もないし。どうしたら、おにーちゃんともう一回会えるんだろう?


 わたしは、怒ってばかりいるブラフマンの話を話半分に聞きながら、どうすれば少しでも早くおにーちゃんに会えるのかを考えていた。


「とにかく、早くワレの言いなりになって『鍵』の役目を果たせ! それにしても、一体どこに『鍵穴』があるのか。リリ、オマエは本当に何も知らないのか?」


「だって、この間までわたし。ふつーの女の子のつもりだったんだよ? 知ってるはずないよ? ブラフマンさん。貴方って賢い人なのに、そんな事も気が付かないの?」


 どうやらブラフマンは、わたしを『鍵穴』まで連れて行って何かを得たいらしい。

 アルおじちゃんとの話を聞くに、何かの力を使って若返ったみたいだけれど、それ以上に何かを求めていた。


 ……古代人の英知、って言ってたっけ? ブラフマンが言うには、わたしは古代人によって造られたって話だけど、わたしは何も知らないし、普通の女の子だって思ってたんだもん。


「く、くぅぅ! 人形の分際で言わせておけばぁ! エヴァ、お前が人形の面倒を見ろ! ワレは、もう知らぬ。人形同士で仲良くするがいい!」


 わたしに言い負けて、怒りながら部屋を出ていくブラフマン。

 ドアを力任せに閉めるので、ドアの向こうにいる警備兵さんもびっくりしていた。


 以前は老人だったという割に、まるで幼児みたいにワガママを言い放つブラフマン。

 若返った時に頭まで幼くなったのか、元々ワガママなお爺ちゃんだったのか。


 ……ボケ老人が野望描いちゃったのかしら?


「ふぅ。マスターにも困りますわ。さて、どうして貴方はマスターの言う事を聞かないのかしら? わたし達はヒトによって道具として生み出された存在。ヒトの望みをかなえるために生きているのよ?」


「エヴァおねーちゃん、どうしてそんなことを言うの? わたし達も生きてお話出来るの。わたしにもやりたい事はいっぱいあるし、助けたい人はいっぱいだけど、ワガママで世界を壊す人を助ける気はないの」


 ため息をつくエヴァおねーちゃん。

 おねえちゃんも、わたしと同じく遺跡の中から生まれたという話。

 確かに、おにーちゃんとの最初の記憶。

 わたしは、何処かの建物の中。

 裸と変わらない薄衣だけ纏った姿だった。

 後ろに何かの機械と透明な筒があったような気がする。


 ……今思えば、それ以前の記憶がないんだもの。でもそこからは、おにーちゃんとの楽しい記憶しかないもん!


「でも、いつまでも貴方のワガママは通じないわ。貴方は仲間が助けに来ると思い込んでいるけれど、ヒトじゃない人形を助けにくる筈ないわ。それに第一、ここは貴族連合の首都。貴族連合の全軍を敵に回して攻めてこれるはずもないわ!」


「やっぱり、ここは貴族連合の街なんだ。エヴァおねーちゃん、教えてくれてありがと。じゃあ、おにーちゃんに居場所を知らせる方法を考えなきゃ!」


「貴方、話を聞いているの? どうして、迎えに来るって信じ切っているの?」


「そんなの当たり前だよ。おにーちゃんは約束を絶対に守るもん!」


 ……おにーちゃん、わたしを迎えに来るって約束してくれたの!


 わたしは何の疑問も持たずに、おにーちゃんが迎えに来るのを信じている。

 でも、それがエヴァさんには理解できないらしい。


「そ、そんな訳無い! マスターはわたしを道具扱いにしてるのよ? 貴方も道具じゃないの? ギガスを動かす為だけの!」


「ううん、違うよ。わたしとおにーちゃん、いつも仲良くしているの! おにーちゃんの事、大好きなの」

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