今そこにある戦い

花園壜

エスパーと魔女

 目が霞む。負傷したようだ。

 身体が重い。高重力。

 息が苦しい。薄い大気。組成も違うのか。

 音が聞こえ難い。これも大気の影響か。

 そして、俺は一体何をしている?

 強度のESP抑制フィールドか、これまで補正が利かなかったことなどなかった……

 そうだ、俺は帝国宇宙軍の雄、ESP部隊のユーマ・モリーサ大佐。


――敵との最終決戦を勝利へと導き、帰途に就こうかという時だ。

「大佐、帰りましょうか」

「だな。夕食はなんだっけ?」

「なんでしょう? 楽しみですね」

「ハハハ」

 突如そこへゲートが開かれ、敵軍魔導部隊の総帥、バーバ・ババが現れた。

 魔女は俺の首に鎌を掛け、道連れにしてゲートへ落ちたのだった。


「モリーサー!」

 叫びに身構える。

 声は廊下の彼方からのようだ。そう、ここはダンジョン。一体何処へ飛ばされてきたのだろうか。

「モリーサー! 何処だー!」

 俺は高重力に耐えながら声の反対へ踵を返す。

「モリーサー! そこかー!」

 鎌や杖や杵や箒や、なにやらその手の物を大きな鉢に詰め込み、自らもそれに乗る怪異な姿が回廊の彼方から迫る。

 高重力に苦しむ俺に対し魔女は物凄い速力だ。

 超能力と魔法に、一体どんな差があると言うのだろう。

「モリーサー!」

 鎌が振り上げられ頭を割られようかという刹那、何者かが魔女の手を掴んだ――


「馬場さん。また〝異能者〟狩りですか?」

 介護士の男は、老婆の振り回すピコピコハンマーを取り上げ、続いて蹲る男性を抱き起こした。

「ケッケッケッ! モリーサー!」

「リカさーん。馬場さんを頼みます」

 点滴の他、多数の棒を車椅子に括り付けた老婆が、女性介護士によって連れていかれた。

「さて……」

 男性職員は大きく息を吸い大きな声で話した。

「森澤大佐! 大丈夫!? 帰ろっか!?」

「うむ。晩飯はなんじゃったかのう」

「なんだろね! 楽しみだよね!」

「ほっほっほっ……」


 俺がこのループから抜け出せるのは、一体いつになるのだろうか……


 了

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今そこにある戦い 花園壜 @zashiki-ojisan-k

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