絶縁書を出されて追放された後に、王族王子様と婚約することになりました。…え?すでに絶縁されているので、王族に入るのは私だけですよ?

大舟

第1話

「ラフィーナお母様、言われた通りに、お水を汲んできました…」


寒い外を薄手の服だけを着て歩き、しかも両手にそれぞれバケツ一杯の水を持って長い距離を運ぶのは、毎日経験してもなれることはない。

私はまだ13歳だから、もっともっと成長して体が大きくなったら少しは楽になるのかもしれないけれど、今は手がちぎれてしまいそうなほどに痛い…。


「相変わらず遅いわねぇ…。まぁいいわ、ここまで持ってきてちょうだい」

「はい…」


そう言ってお母様の足元まで私がバケツを運んでいったその時…。


バッシャーーン!!!!


お母様がバケツを二つとも蹴飛ばし、ここまで痛い思いをして運んできた水たちは一気に全部地に落ちてしまう。

それどころか、まるで狙ったかのように私の方めがけて蹴り飛ばしたためか、私の前身は一瞬のうちに頭の先から足先まで、水でぬらされた。


「あらまぁ、だめじゃないのこぼしたら。せっかくのお水がもったいないいでしょう?」


薄ら笑いを浮かべながらそう言ってくる姿を見る限り、間違いなくお母様はわざとやったのだろう。

もう何度も繰り返されてきたことだから、もはや嫌だという気持ちも薄いけれど。

それでもお母様は私に嫌がらせができたと信じて疑わない様子で、にやにやという表情を浮かべ機嫌をよくする。


「こぼしちゃったんじゃぁ仕方がないわよねぇ?もう一度取りに行ってきなさい。…あぁ、この散らかした場所はきちんと片付けておくことと、この分も合わせて倍のお水は持ってくること。それができなかったら、今晩も食事は抜きになるわよ?いいわね?」

「はい、お母様…」


仮に時間通りに倍ののお水を運んできたところで、私に出される食事が粗末なものであろうことは確定している。

…だからといってこのままなにもしなかったら、今以上の苦しみを与えられてしまうことになる。

私は言われた通り、その場を片付けて再び水を汲みに行く準備に取り掛かろうとした。

その時、お母様の後ろからもう一人の人物が姿を現した。


「まぁ、セレシアお姉さまったら、また水をひっくり返してしまったの!?ほんとなにをやってもダメなんですねぇ…♪」


お母様と同じような口調で、それでいて顔の見た目も似ているこの人は、私の義理の妹であるリーゼ。

お母様に似ているのは無理もない、二人は私とは違って、正真正銘の親子なのだから。


「お母さま、一体どんな頭をしていたらこんな何度も何度も同じ失敗をしてしまうのかしら?私、お姉さまと血がつながっていなくって本当に良かったと思いますわ。もしも私も同じ血を引いていたらと思うと、寒気がして正気じゃいられませんもの…(笑)」


それは私だって同じだけれどね。あなたたちと血がつながっていたらなんて、想像しただけでも吐き出しそうになるもの。


「さぁさぁセレシア、さっさと水を汲んでいてちょうだい。のんびりしている時間はないわよ」

「はい、わかりました…」


栄養失調からか、それとも体の冷えからか、いずれともわからない体の震えを強く感じながら、私は再び両手にバケツを抱えて水を汲みに出発した。


――――


途中まで来たところで、私はあまりの体の震えに耐え切れず足を止め、その場に伏せてしまう。

濡れた体をふき取るタオルを渡してもらえなかったため、ほとんど全身が濡れたままの状態で歩いている。

今日の外はごえるほどの寒さであるために、ぬれずに歩けていたさっきよりもひどい状況になっていた。

けれど、このままここで倒れていたら、それこそさらに状況は悪くなっていく一方。

私は最後の力を振り絞り、あと少しに迫った水源を目指して再び歩き始めた。


――――


「た、ただいまもどりました…」

バシンっ!!!!!!


やっとの思いで家に到着した私。

家の扉を開けることさえも苦痛に感じるほど限界の状態だった。

そんな私を出迎えてくれたのは、体の大きなお父様の平手打ちだった。


「いったいなんだこの有様は!!玄関は水びたし!!しかもそれをやったお前は遠くへ逃げ出して言っただと!!さらにはお前に任せている水くみだって満足にできていないじゃないか!どういうつもりだっ!!!」

バシンバシンッ!!!!


もう一度、そしてさらにもう一度、私の頬をエルクお父様の手が襲った。寒い外にずっといたから肌の感覚はかなり鈍っているけれど、それを貫通して有り余るほどの痛みだった。

お父様の後ろにはラフィーナお母様とリーゼが控えており、お父様の背中越しに楽しくて仕方がないといった表情を私に見せつけてくる。


「ご、ごめんなさいお父様…。た、足りない分はもう一度汲みに行ってきます…。玄関の水も片付けますから…」


寒すぎるからか全身が震え、口がこごえてうまく言葉を話すことができない。

それでもなんとか力を振りしぼって、私はお父様に言葉を返した。


そして、お母様にひっくり返されたバケツの水は、確かに私がすべて片付けたはずだった。

にもかかわらず、もう一度同じ状態になっているというのなら、それをやった人物は誰の目にも明らかだった。


「まぁまぁあなた、セレシアもこう言っているんだし、今日はこれで許してあげたらどう?」

「私もそう思いますわエルクお父様。お姉さまは人よりも頭が足りないのですから、普通の人と同じ扱いをしたらダメなのです。普通の人にできることでも、お姉さまにはできないのですから…(笑)」


勝ち誇ったような表情で私の事を見つめてくる二人。

自分たちの思惑がすべてうまく行って、楽しくて仕方がないという様子だった。


「はぁ…。もっと言いたいことはあるが、まぁいい。二人に感謝するんだな、セレシア」


お父様はそう言うと、私めがけて振り上げていた手を下ろした。


「だが、お前のミスはお前のミスだ。足りなくなった水はその分、何かを浮かせて帳尻を合わせなければならない。おまえの分の風呂の水や洗顔用の水、それに…トイレの水もカットだな。…お前のやったことなのだから、それで文句はないだろう?」

「はい、もちろんです…」

「それは困りますわお父様、お姉様の体すっごく臭いですから、どうせその体から出てくるものも人一倍のにおいでございましょう?そんなものをまき散らされる方が嫌ですわぁ(笑)」

「「(笑)」」


リーゼの言葉を皮切りに、お父様もお母様もくすくすと笑い始める。


「それもそうだな(笑)。よし、リーゼに免じてその分だけは許してやろう」

「よかったわねセレシア(笑)。ほら、ちゃんとリーゼにありがとうを言わないとだめでしょう?」

「ありがとう、リーゼ…」

「いえいえ、どういたしまして…(笑)」


最後の最後まで、3人は私を見て笑い続けていた。

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