第15話  信長の見る天下

早速だが信長殿、光秀殿からそなたのことは聞いておる。私はな、そなたと初めて会うのじゃが、そなたの今までの戦いぶり、国作りには期待しておるのじゃ。信長殿、そなたの目指すところは何か、答えてはくれぬか」


具教はしっかりと信長の目を見つめていた。しばらくの沈黙の後、信長は口を開いた。


「そのように‘具教様’いや、あえてそう呼ばせていただきまするが、具教様に我を見ていただいていたとは誠に恐縮にございます。自分でもそのような人物かどうか、わかりませぬが、そちらからの申し出でありますれば、お答え致しましょう」


信長の目はどっしりとかまえていた。今川との合戦を前に悟りを得たとでもいうのだろうか、具教は考えた。


「私の目指すところとは、戦のない、賑やかな日ノ本を造ることにございます。今は将軍の威厳もなく、各地で戦ばかり。帝も国の安定を願うなら、もっとやりようがあろうに、何も打つ手がないように見えまする。そのような世の中で、日ノ本に暮らす民は豊かにもなれるはずがありませぬ」


やはり、この男はただ者ではないと具教は確信を持った。自分の領地を増やすことばかり考える領主や豪族が多いなかで、この男は日ノ本にまで考えをめぐらせている。もしかしたら自分よりも先を考えているのか。具教は何か恐れまで感じるのであった。


「賑やかな日ノ本か。良い響きじゃ。今の幕府ではそのような国は造れないと申すか」


具教はあえて問うた。できれば将軍、義輝にその努めを任せたかった。しかし、どうもその夢は叶いそうもない。そうでなければどうするか。この信長という若者に賭けてみるか、本気で考えたのである。


「如何にも。義輝殿とは一度会うておりますが、長年の三好一族との争いに固執しすぎ、あやつらを打ち負かすことしか考えておられぬ様子。都を、国をどうやって栄えさせるかの考えはこれといって聞かされておりません。国を富ませ、民の暮らしを楽しくさせてやることを考えられなければ、国の安寧など夢にございましょう。」


信長の言葉はいちいちもっともだと思う。続けて信長は語り始めた。


「今の室町幕府に人は集まりませぬ。皆、欲にまみれた連中ばかりに私には見えまする。だが、室町幕府という名前にはまだ権威がある。その権威を利用する価値はありましょう。もし、その名前にも威光がなくなったとすれば室町幕府などいらぬものと存じます」


この男、室町幕府に取って代わって日ノ本を治めるというのか。いささか具教は驚いた。明智光秀はこのことを知っていたのかと、そっと目を光秀に移すと、すでに知っていたのか、穏やかにその話を聞いていた。


「では、そなたは室町幕府を倒すと言われるか」


具教は聞き返した。今、それをやれば混乱をきたす。


「今はそのときではございませぬ。この信長、今川に勝たねばなりませぬゆ。」


身の程をわきまえていると、具教は感心した。今川に負ければそれまでなのだ。


「そうじゃのう。少々兵の数が足りぬと聞いておるが、今川に勝てるのか」


「策は考えておりまするが、勝負は時の運と申します。勝てるとも負けるとも」


信長の言葉の裏に確固とした自信のようなものをみた。


具教は立ち上がると入り口の方に歩を進め、夕日に美しく照らし出された庭を見ながら大きな声で答えた。


「今日は良い日であった。武器や兵は出せぬが、もし、この具教にできることがあればお手伝い申し上げよう」


というと、振り返った。その先で信長は深々と頭を下げていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る