第37話 閑話:とある少女の物語4




 私が極悪魔女に師事することになった日から数か月が経った、ある晴れた日のお昼前。

 窓際の席に座って教養の講義を受ける私にぽかぽかとした陽気が襲い掛かってくる。

 やつらは私が持つ堅牢な火属性抵抗をものともせずに、精神を侵食して私を眠りへと誘う。


(太陽からは眠りを誘う魔術が出ているに違いない……。きっと、そうに違いない……)


 ちらりと周囲に視線をやると、日ごろから私の後ろをついてくる少女たちが真剣な表情で講義を聴いている。

 中には私より幼い子だっているというのに大した精神力だ。


 気づけばもうすぐお昼の鐘がなるという時間だった。

 私のノートには途中から蛇がのたくったような謎の言語が記されており、解読は困難を極める。

 今からノートの続きを取り始めたらお昼に行くのが遅れてしまいそうだ。


「それでは、本日の教養の講義はここまで。しっかりノートをとって復習しておいてください」


 講師は私のほうを一瞥すると、そう言い残して教室をあとにする。

 どうやら完全にばれているらしい。

 仕方ない、と溜息ひとつで気持ちを切り替えて周りの子たちに指示を飛ばす。


「ごめん。ノート取り終わってないから、先に食堂に行ってちょうだい。なるべく早く追いかけるから」


 指示を出すことにはもう慣れた。

 いつものように次の行動を指示すると、私は急いでノートの続きを取ろうと筆記用具を手に取る。

 まずは異国の蛇言語を消すところから。


 この子たちを待たせるのは申し訳ない。

 ぽかぽかの陽気にも負けずに講義をしっかり受けていたのだから。

 お昼ご飯のお預けをくらうのは、私だけで十分だ。


「大丈夫ですよ、リリー姉さま!レオナがリリー姉さまの分も、ノートを取っておきました!」


 褒めて褒めてとばかり紙を差し出すレオナ。

 そこには綺麗な字で、教養講義の板書が書き写されている。

 幼い少女にノートをとらせて自分はうたた寝なんて、どこからどうみても悪者だけれど。

 意地を張っても仕方ない。

 私はレオナの頭をひと撫でして、彼女に礼を言う。


ありがとね、レオナ」


 レオナの厚意を無にすることはしない。

 もう何度目かもわからないレオナのノートを、ありがたく頂戴した。




 昼食を済ませて一休みすると、講義開始の鐘まで十分な余裕をもって魔術講義室に入る。

 私の席――といっても座席の指定はないけれど――はいつも窓側の中段で、うちの子たちもその周囲に陣取っている。


 興味深いことに、派閥によって座る席が大体決まっている。

 教壇近くの中央前段に陣取るのは最大派閥のブリギット派。

 中央後段に集まるのはイゾルデ派。

 廊下側に集まるのはニーナ派で、窓側が私たちだ。

 ちなみに私がここにくるまではイゾルデ派が窓側だったらしい。

 申し訳ないけれど、ここを譲る気はない。


 ちなみに教養の時間だと、魔術の時間と比べて若干位置取りが変わってくる。

 私たちが窓側であることは変わらないけれど、年少組には存在しないブリギット派の代わりに教壇前のスペースを占有しているのはイゾルデ派ではなくニーナ派だ。

 これは年少組にいるイゾルデ派が10人足らずであるということや、派閥の主であるイゾルデが年少組にいないことも影響しているらしい。


「リリーさん、少しだけお話をよろしいですか?」


 くだらないことを考えていたら、いつの間にか近くにいた少女から声をかけられた。

 肩までのばした黒髪を毛先の方でまとめている少女。


 たしかこの子は――――


「どうしたの?えーと……ニーナさん?」


 ニーナの名前がすんなり出てこなかったことに思うところがあるようで、ニーナの取り巻き2人が不満そうな顔をする。

 ニーナはそれを手の動きだけで制すと、私に向けて話をしようとして――――周囲の様子に気がついた。


 いつのまにか、うちの子とニーナ派だけでなく教室全体から注目されていた。

 この場所では嫌味の応酬や喧嘩以外で派閥の違う者同士が話をすることなんてほとんどなかったから、興味を惹いたのだろう。


「……ごめんなさい。やっぱり魔術講義のあとに時間をいただけませんか?」


 さすがにこの状況で会話を続けることはできないと思ったのか、ニーナは用件を先送りすることにしたようだ。


「そう?私はどっちでも構わないわ。そうねー……今日は晴れてるし、外のテーブルでお茶を飲みながらなんて、どう?」

「いいですね。賛成です」


 いつぞやのテーブルセットを思い浮かべてニーナに提案すると、それはあっさりと受け入れられた。

 最近は暖かくなってきたし、今日は風も穏やか。

 きっと寛ぐことができるだろう。


「よかった。じゃ、あとでね」

「はい。では、用件だけ先にお伝えしておきますね。実は私たちを――――」


――――リリーさんの派閥に入れてほしいのです。


 その言葉で、教室中に緊張が走った。


「続きはのちほど」


 それだけを言い残し、ニーナと取り巻きたちは廊下側の席に戻っていく。


(ふーん……)


 少しだけニーナの背中を追っていたけれど、講師が入室してきたため正面に視線を戻す。

 ニーナの話はあとで聞けばいい。

 今は魔術の講義に集中することにしよう。




 魔術講義の後、うちの子たちにお茶を用意してもらってニーナとの話し合いに臨んだ。

 私の後ろには11歳から14歳までの24人の少女たち。

 ニーナの後ろには13歳くらいから15歳くらいまでの14人の少女たち。

 私とニーナを合わせて総勢40名の大規模なお茶会になってしまった。

 テーブルセットは1つではないけれど、流石に全員が座ることはできなかったのでほとんどの子は芝生の上に敷いたシートに座ってお茶を飲んでいる。


 いや、よく見るとお茶を飲んでいる子はほとんどいない。

 どの子も真剣に私とニーナの方を見つめていた。

 私たちの話し合いに対する彼女たちの関心の高さが窺える。

 ふと講義棟や宿舎の方に目をやると、年長組の少女たちの姿も見つけることができた。

 あれはたしかイゾルデ派の子だったか、と思っていたらイゾルデ本人を発見した。

 彼女はこちらの様子をうかがっているということを隠そうともせず、食い入るようにこちらを見つめている。


「なんだか有名人になった気分ね」

「リリーさんは、この場所では十分に有名だと思いますよ」


 ニーナはこれからの話を円滑に進めるために私を持ち上げる。

 100人もいないところで有名になってもなあ、という内心を笑顔で隠し、私はお茶を一口含んだ。


「さて、観客もいることだし早速本題に入りましょ。一応最初から説明してもらえる?」

「はい。私たち……私を含めてここにいる15人を、リリーさんの派閥に加えてほしい、ということが今回の用件です」

「そうなの?私、派閥を作っているつもりなんてないんだけど」

「そんなことを言わないでください。それに、リリーさんにそのつもりがなくても、ここではそういう認識をみんなが持っています」

「そう?」


 間を置くために視線を外すと、たまたま私の近くにいた子と目が合った。


(うわあ……)


 うちの子たちがとても不安そうにこちらを見ている。

 もしかして、私に捨てられるかもなんて思っているんだろうか。

 ちょっとした軽口だったのに罪悪感が半端ない。

 うちの子たちを見て居られなくてニーナに向き直る。

 そのときに私の隣の椅子に陣取るレオナの表情がチラリと見えたが、彼女も今にも泣きだしそうな顔をしていた。


(やめて。私をこれ以上追い詰めないで……)


 罪悪感に押しつぶされてしまいそうだ。

 こほん、とわざとらしく咳払いをして話を続ける。


「まあ、いいわ。それで、私の派閥に入りたい理由は?」

「えっと、実はですね――――」


 とうとう自分の派閥について私から言及せざるを得なくなった。

 横目で見たレオナの顔が、ぱぁっと明るくなる。

 背後からも小声ながら嬉しそうな声が上がった。

 なんだか気恥ずかしいが、うちの子たちにあんな顔をさせておくわけにはいかない。

 あんな顔で後ろをついてこられたら、そのうち私は自分の部屋から出られなくなってしまう。


 うちの子が淹れてくれた紅茶を飲みながら淡々と話を進めることに専念する。

 今の私の年齢は12歳で、ニーナの年齢は14歳と聞く。

 12歳の私を相手に会話の主導権を握れないとは思っていなかったのか、ニーナは少し戸惑うような声色で説明を始めた。

 派閥の長の会談といえば仰々しいが、実際のところ小学生と中学生が話し合いをしているに過ぎない。

 この程度のことで緊張したって仕方がないのだ。


「リリーさんがここに来てから、4か月くらいでしょうか……。この期間、私の派閥への風当たりが段々強くなってきています」

「風当たり、というのを具体的にお願い」

「例えば……、食事のときにおかずを横取りされたり、掃除の当番を押し付けられたり、あとは――――」

「地味な嫌がらせね。それで、ニーナさんはなんでそうなったと思っているの?」

「それは……。私にはわかりません」


 わからない、か。

 わからないなら、どうして私から目をそらすのかしら。


「そう。それじゃ、質問を変えようかな。どうして、食事のときにおかずを横取りされたり、掃除の当番を押し付けられたりしたことで、私の派閥に入ろうと思ったの?」

「リリーさんがここに来てから、この場所のパワーバランスは大きく変わりました。リリーさんが来る前、ブリギットさんたちとイゾルデさんたちは反目し合いながらも、結局その矛先はいつも年少の子たちに向かっていたんです。でも、リリーさんが来てからは、それもなくなりました。あの人たちはリリーさんを恐れていますから」

「ふーん……。ところで、ひとつ疑問があるんだけど、聞いてもいい?」

「……なんでしょうか?」


 私は今どんな顔をしているだろうか。

 ニーナの表情がこわばっているところをみると、きっと攻撃的な表情をしているのだろう。

 でも、それは仕方のないことだ。


 だって――――


「あなたは、私が来る前は、年少組に矛先が向かっていたと言ったわね。でも、私が来てから、あなたの派閥への風当たりが強くなった、とも言ったわ」

「……はい。それがどうしたのですか?」


 ニーナの声が震える。

 でも、私は手を緩めない。


「たいしたことじゃないの。あなたたちもうちの子たちと同じく年少組だと思うんだけど――――」


――――私がここに来るまで、どうやって『矛先』を避けていたのかなって。


 暖かい風が吹く、晴れた日の昼下がり。

 テーブルセットの周辺だけ、穏やかな日常から切り離されているかのように重苦しい雰囲気が漂っている。


 沈黙が場を支配する。

 俯くニーナを私は黙って見つめていた。


「おかわり」


 近くに座っていた子に紅茶のおかわりを用意してもらう。

 助け舟なんて出してあげない。

 いくらでも待ってあげる。

 日は高いし、夕飯の時間もまだまだ先のこと。

 だから、そこから逃げることは許さない。


「ごめんなさい……」


 どれくらい時間が経っただろうか。

 ニーナがぽつりと一言、謝罪の言葉を口にした。

 彼女の双眸から、ぽたぽたと雫がこぼれ始める。


「あら?急にどうしたの?私はニーナさんに謝られるようなことをされた覚えはなんだけど。ニーナさんは、何か悪いことをしてしまったの?」


 でも、ダメ。

 それではまだ足りない。

 私の追撃に耐えかねたのか、ニーナの両隣に座っていた2人がとうとう口を出してくる。


「ニーナさん!もういいんです!やっぱりやめましょう、こんなこと!」

「そうです!どうしてニーナさんがこんな目にあわなきゃいけないんですか!」


 取り巻き2人の目にも涙が浮かんでいる。

 昼間の態度といい、ニーナは彼女たちから本当に好かれているのだろう。

 かわいそうな気もするけれど、それでもこれは必要な工程なのだから途中で切り上げるわけにはいかない。


 ニーナの出方をうかがっていると、彼女は気丈にも涙を拭い取り巻き二人を叱責する。


「やめてください!これはもう、決めたことです……」


 決心がついたのか、ニーナは赤くなった目でしっかりと私を見つめ返した。


「私たちは、もともとバラバラだったんです。ブリギット派とイゾルデ派の横暴に抵抗することもできずに、されるがままに過ごしていました。でもある日、ひとりの子が年長の人にひどいことを言われていることに耐えかねて、私はつい言い返してしまいました。そのときです。私の近くにいた2人も一緒になって反論してくれて、年長の人を追い返すことができました」


 そう言って両脇にいる2人に目線をやる。

 なるほど、そのときの2人がこの取り巻きというわけか。


「それから私たちは、年長組の人に対抗するために私と同年代の子を中心にまとまり始めました。最初は5人くらいでしたが、数が増えていくにつれ、年長組の人からひどいことをいわれたり、嫌なことを押し付けられたりすることがなくなっていきました」

「ふーん、でも変ね。私がここに来た時に、いじめられていた小さい子がいた気がするわ」

「はい……わたしたちは――――」


――――自分たちの身を守るために、私たちより幼い子たちを見捨てましたから。


 ニーナはそこまで言うと再び泣き出し始めた。

 よくみると、ニーナの取り巻き2人だけでなく彼女の後ろの子たちも涙を流している。


 そう、簡単な話だ。

 彼女たちは自分たちを優位にするというよりは、自分たちの身を守るために派閥を構成したのだろう。

 けれど、ブリギット派とイゾルデ派に所属しないすべての子を派閥に取り込んでしまえば、正面から彼女らと戦わなければならなくなる。


 そこでニーナ派がとった方法が――――


(うちの子たちをスケープゴートにすること、ってわけね)


 ブリギット派だってイゾルデ派だって、押し付けやすい方に押し付けるだろう。

 曲がりなりにも派閥を構成する子と無所属の子なら、押し付け先に選ばれるのは後者。

 後者の方が年齢層が低いのであればなおさらだ。


「わたしもっ、そんなこと、したくなかったんですっ。でも…………でも、ダメでした。人数を増やすたび、に、年長の人、からの視線が厳しくなっていってっ……。これ以上増やしたらっ、きっと、またこっちに矛先が向いてしまう、って、そう思って……」


 とうとうニーナは自らのやったことを最後まで言い切った。

 もう最後の方は泣きながらであんまり聞き取れなかったけれど、まあ、それくらいはおまけしてあげよう。


「レオナ」

「はい!なんですか?リリー姉さま」

「ニーナさんの後ろにいる子たちから、嫌なことを押し付けられたことはある?」

「……たぶんないです。私たちにひどいことをするのは、いつも年上の人たちでした」

「そう」


 続いて後ろを振り返る。


「あんたたちはー?あの中にひどい人がいたら、私に教えてちょうだい」


 少し話し声が聞こえるが、結局誰からも声は上がらない。


「ないみたいね。まあ、そういうことなら、あなたたちを受け入れてもいいかな」


 自分たちが見捨てた相手に助けを求めるなんて虫のいい話だとは思う。

 けれど、自分たちがまとまったことで下の子たちを虐げる方向に行かなかったなら、きっと悪い子ではないのだ。

 非力な14歳の少女にそれ以上を求めるのは酷だ。

 私はそう結論付けた。


「ありがとうございます……」

「お礼を言うのは早いかもね。私はまだ、条件を言っていないもの」


 ニーナの瞳が不安そうに揺れる。

 ちょっといじめすぎたかもしれない。


「別に、たいしたことじゃないんだけどね。まず、うちの派閥は年齢による上下関係を認めてないから」

「それは……そうでしょうね」


 派閥の長たる私の年齢が12歳なのだから、これは当然のことだ。


「あと、自分の部屋の掃除は自分ですること。共有スペースの掃除は当番制ね」

「はい、それはもちろん」


 掃除当番は私もやる。

 レオナたちが何を言っても、これだけは譲らない。

 ここで誰かに押し付けるようなら、やっていることは年長組の子と変わらない。


 ちょっとしたことから求心力というものが簡単に失われることも、私は理解している。


「以上よ。あとは、自分のしたいようにしなさい」

「え、これだけですか?」

「これだけよ」


 ニーナは目を丸くしてこちらを見返す。

 一体どんな条件を予想していたのだろうか。

 まあ、さっきまでの私の態度を見れば無理もないことかもしれない。


(ああ、面倒だけどフォローも必要ね)


 ニーナの後ろにいる子たちの表情は安心と不満が入り混じっている。

 最弱派閥でいることを回避できたことによる安心と、自分たちのリーダーを泣かされたことに対する不満。

 現時点では前者の感情が強いだろうけど、自分の安全が確保できれば人は不満な部分に目を向けてしまうものだ。


「ニーナ、それとレオナ。ついてきなさい」

「はい!」

「は、はい」

「あんたたちは、すぐ戻るからしばらく休憩してなさい」


 ニーナを呼び捨てて上下関係を示すこととあわせて、私の付き人のようになりつつあるレオナと一緒に連れ出すことでニーナを軽んじることはしないというメッセージも込める。

 ニーナを思っての不満なのであれば、私がニーナを信頼しているとアピールすることである程度軽減することもできるし、私と元ニーナ派の子たちの間にニーナを置くことで緩衝材の役目も期待できるはず。


 お茶会の会場から少し離れたところで周囲に誰もいないことを確認すると、私は努めて笑顔でニーナに話しかける。


「ごめんね、ニーナ。悪役を押し付けてしまって」

「え?いえ、そんな……」

「うちの子たちは、あなたの仲間から直接嫌がらせはされてなかったみたいだけど、うちの子たちが嫌がらせをされているときに助けてくれなかったということは、きっと覚えてる。あなたたちを吸収しても、そういうしこりが残したままでは、私の派閥の中にさらに小さな派閥ができるだけの結果になるわ。だから、あなたたちを適度にこき下ろして、うちの子たちの不満を解消する必要があったの」

「リリー姉さま!私たちのことを気遣ってくれたんですね!」

「リリーさん……。そこまで考えて……」


 なぜかニーナが目を伏せて落ち込んだ様子を見せている。


「どうしたの?言いたいことがあるなら言いなさい」

「いえ、違うんです……。ただ、なんというか、格の違いといいますか、そういうものを感じてしまって……」

「気に病むことはないわ。さっきはああ言ったけれど、あなたは年長の子たち相手に、よくやったと思う。少ない人数とはいえ、年長の子たちの嫌がらせからあの子たちを守ることができた。それは誇るべきことだと思うわ」


 ニーナと視線を合わせながら彼女の努力を評価する。


 感極まったのか、ニーナの瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちている。

 でも、その表情はさっきとは一転して嬉しそうだ。


 きっとニーナも辛かったはずだ。

 もともと性格的に派閥を率いるようなタイプではない。

 おそらく責任感だけで今日まで頑張ってきたのだろう。


「やっぱり、リリーさんを頼って正解でした……」

「そうです!それに、リリー姉さまはすごいんですから、比べても仕方ないです!」

「ふふっ……そうかもしれませんね」


 レオナのよいしょが、いい具合に雰囲気を明るくしてくれた。

 というか、この子の私への無限の信頼はどこから来るのだろう。


(まあ、いい感じにニーナとの信頼関係も築けたことだし、細かいことはいいや!)


 これだけの人数になるとまとめるのも一苦労だ。

 彼女にはこれから副官のような立ち位置で頑張ってもらうことにしよう。


「さて、あの子たちのところへ戻りましょ。ニーナもそろそろ泣きやみなさい」

「……はい!」


 私たちはお茶会の会場へと戻っていく。

 リーダーを連れていかれて不安そうな表情だった元ニーナ派の子も、ニーナが笑顔で戻ってきたところをみて幾分か安心できたようだ。

 ずいぶんと数を増やしたうちの子の視線を集めたところで、少女たちに向かって声をかける。


「さあ、大人数になっちゃったから、いくつかやらなきゃいけないことができちゃったわ。明日から頑張っていきましょ」

「やらなきゃいけないこと、ですか?」


 レオナの問いには答えない。

 不思議そうに首をかしげるレオナの頭を撫でながら、私はただ微笑を浮かべた。



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