義父に丸焼きにされそうになる

 いやぁ、それにしてもスサノオの親父、何がなんでも俺を殺す気だぞ。さぁて、次はどんな手でくる?



「オオクニヌシよ、今日は弓矢をしよう」


 は? 弓矢? てっきり無理難題を押し付けてくるかと思ってたから拍子抜けだ。


「さあ、野原に行くぞ!」


 スサノオの野郎、ノリノリじゃないか。これはきな臭い。また何か仕掛けてくるに違いない。


◇ ◇ ◇


 野原に着くなり義父スサノオはこう言った。


「今から俺が鏑矢を射る。その矢を取ってこい」


 矢を持ってくるだけ? 本当にそれだけなのか?


「おい、返事はどうした!」


「はい、分かりました」


◇ ◇ ◇


 さて、野原を駆けずりまわって矢を探し出したわけだが、なんだか変な匂いがする。思い出せない。そうだ、俺が猪を丸焼きにした時の匂いだ。それに近い。つまり、俺は……火に囲まれている! くそ、スサノオの親父、今度は俺を丸焼けにする気だ。今度は妻の助けを借りられないぞ。どうする?


「チュウチュウ、こんにちは。私、ネズミです」


 いきなり目の前にネズミが現れた。いや、自己紹介されなくてもネズミって分かるわ! いや、今はそれどころじゃない。何とかこの状況を打破しなければ。


「チュウチュウ、お困りの様子ですね。あなたに耳よりな情報です。実はこの地面の下は空洞なのです。そこに隠れてはいかがでしょうか?」


「なに、それは本当か!?」


「試してみれば分かるチュウ。論より証拠だチュウ」


 ええい、今はなりふりかまってられない。ネズミを信じるしか道はない。俺が地面を蹴ると、大きな空洞が現れた。よし、これなら俺でもすっぽり入るぞ。


「あなたはここに隠れているといいチュウ。火が治ったら私が矢を取ってくるチュウ」


 なんて優しいネズミなんだ。見知らぬ俺のために尽くしてくれるなんて。


◇ ◇ ◇


「スセリビメ、残念ながらオオクニヌシは焼け死んじまったに違いない」スサノオが言う。


「お父さんが殺したんじゃない。火を放ったのはお父さんよ!」


◇ ◇ ◇


 ん、なんかスセリビメの泣き声が聞こえるぞ? 何事だ?

 俺が矢を持って野原から出てくると、スサノオの顔が驚きに満ちていた。そりゃそうだ。今度こそ殺したと思っていたのだから。

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