義理の親父の無茶苦茶な試練

 誰か知らない天の声に従って根の国に来た。来たはいいが、どこにスサノオとやらはいるんだ?



 そんなことを考えていると、目の前にすっごい美人がやってきた。美人はもじもじしながら、時折俺を見る。これはあれか、俺に一目惚れしたってところだな。まあ、俺もまんざらではない。


「私はスセリビメといいます。あなたの名前は?」


「俺はオオクニヌシ。ちょっと訳ありでここまで来たんだが、スサノオという奴を知らないか?」


「まあ、お父様に用事があるのですね」


「お前の親父だと!?」


 こいつは驚いた。天が俺に味方をしたとしか考えられない。


「あの、私あなたに一目惚れしてしまいました。その、よかったら……」


「俺もだ。もしよかったら俺と結婚してくれ」


「まあ、大胆な人」


 スセリビメは俺に抱きついてきた。いや、お前の方が大胆すぎるだろ。


「そうでした、お父様に用事がおありだとか。案内しますね」



◇ ◇ ◇



「ほう、お前はオオクニヌシだな。俺の名はスサノオ。お前の義理の父だ。さて、早速だがあっちに蛇のいる洞窟がある。試練としてそこで寝てもらおうか。本当に俺の娘にふさわしいか、見極めてやる」


 この親父、ぶっ飛んでやがる。仮にも義理の息子だというのに、扱いがひどい。これじゃあ、俺の兄弟たちと似たり寄ったりじゃないか。まあ、あいつらは騙し討ちで俺を殺そうとしたが、スサノオは違う。ここは真っ向勝負だ。




 夜になると妻が来た。こんな危ないところに来るなんて命知らずだな。


「あなた、この部屋は蛇でいっぱいよ。でもね、助かる方法があるの。この薄い布を振るのです。たちまち蛇はいなくなるでしょう」


 布で蛇を追い払う? 気でも狂ってしまったのか? だが、俺は妻の言うことを信じることにした。妻の言うことを信じないなんて夫として失格だからな。



 夜になると、そこかしこに蛇が出始めた。妻の言う通りにするか。俺は薄い布をひらひらと振る。するとたちまち蛇たちは姿を消した。いや、本当に効いたよ。疑ってごめん。



 翌朝。妻は俺の姿を見て大喜びで駆け寄ってきた。その時だった。


「ほう、俺の試練を乗り越えたか。見どころのある奴だ。次は……そうだな、ムカデと蜂のいる洞窟がある。今夜はそこで眠るがいい。きっと素晴らしい夜になるぞ」スサノオが邪悪な笑みを浮かべながら言った。


 あいつ、俺にとっておきがあるのを知らないらしい。妻曰く、この布にはすごい霊力があって、なんでも打ち払うらしい。ムカデも蜂もイチコロだ。



 翌朝、俺はにこやかな顔をしてスサノオに挨拶した。


「いやぁ、今日もいい天気ですね、お義父さん。昨日はよく寝れましたよ」

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