第20話 C3−P0 重なる気持ち
あいつを殺す。
その決意を宿した瞳は、暗く、深く、悍ましかった。
「待ってよマウ。私、政治は詳しくないけどさ、暴力以外で国を変えられるはずだよ。時間は掛かってもさ」
「言っただろうルージュ。僕と君は、もうそれぞれ違う道を歩んでいる。もう、ずっと一緒の幼馴染ではいられないんだ」
「殺したところで、絶対バレる!! マウも処刑されちゃうよ!!」
「構わない。平等な世界のために、この命、捧げるつもりだよ」
どうしてそんな悲しいことを平然と口にできるのだろう。
勘弁してよ。たとえゲームキャラでも、そう簡単に見捨てることなんてできない。
まして相手は、ゲームの序盤から登場していたマウなのだから。
「行かせない」
咄嗟に杖を出す。
こうなったら、力づくだ。
「ここでマウを眠らせる!!」
攻撃の意思を見せているのに、マウは杖を構えようともしなかった。
ただじっと、私を見つめたまま、動かない。
「どうして、そこまで……」
「ほっとけないからだよ。マウ言ったよね? 私のこと危なっかしいってさ。マウの方が何倍も危なっかしいよ。……ねえ、やめようよこんなの。入学して間もないのにさ、マウを失いたくないよ」
どうしよう。
視界がぼやける。
胸が苦しくって、楽になろうと言葉が吐き出る。
「最初はマウのこと怖い人だと思ってた。でも、マウはただ不器用で猪突猛進なだけで、本当はすごく優しい人だってわかった。私を心配して、守ってくれて、嫉妬深いとこも可愛いし、告白してくれて嬉しかった。嬉しかったんだよ」
たとえその告白が、私ではなくルージュに向けられたものでも。
目が熱い。
頬を伝う雫は冷たいのに。
虚しい怒りがどんどん込み上げて溢れ出す。
マウの決意とプライドを前に、私はあまりにも無力だ。
「私のこと好きなんでしょ? じゃあもっと一緒にいようよ、マウ」
瞬間、マウの腕が私を包んだ。
優しく、でもしっかりと、私を抱きしめ離さない。
「ありがとう。愛してるよ、ルージュ」
顔を上げる。
綺麗な水色の瞳に私が映っている。
マウ。
マウ。
あぁ、わたし、マウを好きになってる。
「行かないでよ」
彼を繋ぎ止めるように、私はマウと唇を重ねた。
私の、人生初のキス。
「マウ、大好き」
「僕もだよ。けど、ごめん……スリープ」
あれ、意識が遠のいていく。
魔法を使ったの?
やだ、マウ。待って、待ってよ。
「マーー」
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目を覚ました時、私は保健室のベッドで横になっていた。
死んだ? 違う、魔法で眠らされたんだ。
保健室の先生が近づいてくる。
「起きたのね」
「あの、マウは?」
「マウくん? あなたをここに運んで、どっか行ったわよ」
まさかマウ、もうルルクスを殺したのか?
それとも失敗した?
待って、だとしたらもっと騒ぎになっているはず。先生だって悠長にお喋りしていないはずだ。
「い、いま何時ですか!?」
「15時よ」
私はベッドから降りると、走り出した。
まだマウを止められる。
きっと、ここが最後の分岐点。これ以上介入すれば、たぶん私は死ぬ。
コンテニューになる。記憶が消えて最初からになる。
マウのことも、サレナのことも、みんなのことを忘れてしまう。
でもいい。構わない。
マウを止めたいんだ。
ふと、廊下の窓から外を見やる。
ルルクスと付き人たちが校舎から出ていた。
帰るのかな。
狙うとするならここが最後のチャンスのはず。
即死魔法エンドストームの射程距離は約5メートル。なら、マウは必ず彼に近づくはず。
瞬間、ルルクスの付き人の1人が、杖を構えた。
そして、
「ルルクス」
姿が変貌していく。
髪は青くなり、背も伸びる。
変身の魔法!?
「父さんの仇だ、エンドストーム!!」
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