イチゴの国の王子様

桃福 もも

第1話 ティアラとドレス

「おやすみなさい。」


 そう言ってベッドに入るとき、なんだか不思議な気持ちになることはありませんか?


 いつもの部屋が、オレンジ色のちっちゃい光になるからでしょうか。

 いつもは見えないものが、見えてしまうからでしょうか。


 りおちゃんは、木目のところに、帽子をかぶった魔女がいることを知っていました。

 天井のライトの陰に、悪魔の目があるってことも、すっかり分かっているのです。


 りおちゃんは、なるべく見ないようにして、寝ることにしていました。

 でも、なんだかいやな感じがして、つい目を開けてしまうのです。


 悪魔の目が目の前にあります。


「きゃあ~!」

 りおちゃんは、おふとんの中にもぐりました。

 どうしよう。おふとんの中から出られません。


 どうしようどうしようどうしよう。


 顔を出したら、きっと悪魔あくまがいます。


 りおちゃんは、奥へ奥へと、おしりから入っていきました。


 おくへおくへおくへおくへおくへおくへ。


 りおちゃんは、ふと思います。


「いったい、どこまであるんだろう?」


 りおちゃんは、今度は前にむきなおって、どんどん進んでいきました。


 どんどんどんどんどん、どどどん。


おふとんの通路は、どこまでも続きます。

 つづくつづくよ、つづつづく、つうつつ、つうつつ、つづくよつづく。


「わあ。」と、りおちゃんが、声をあげました。


 出口に広がっていたのは、イチゴの森だったのです。

 木が全部イチゴなのでした。

 小さなお花もイチゴです。


 とおくのお山に、三だんになったイチゴケーキのおしろも見えます。


「お城がケーキだなんて、ありえる? ありえないわあ。」


 りおちゃんは、おふとんの中にいることも忘れて、はあ~と、大きくためいきをついて、立ち上がりました。


 こてっ。


 あらあら大変。りおちゃんは、ベッドからころげ落ちてしまったのです。


 ぼてっ。


 りおちゃんの上に、何かが落ちてきました。


「みーくん!!」


 みーくんというのは、りおちゃんのマクラ型のぬいぐるみです。

 どうがびよーんと長くて、そこに頭をおいてねむれるようになっていました。


 ベッドの中で、りおちゃんは、いつもみーくんと一緒いっしょです。

 みーくんは、パステルブルーに、鼻の周りだけ黄色い、目がはなれた、あいきょうのある顔をしていました。


 みーくんは、いつも「みい!」といいます。

「みーは、いっつも、りおちゃんと一緒いっしょだみ。」


 りおちゃんは、にっこりして、みーくんをきしめました。


「ここは、どこだみか?」


「わからないけど、イチゴの国かなあ?」


 ピンク色の池がありました。


 みーくんは、ふーっんと、息をすうと「甘くて、おいしそうな、においがするみ。」と、言いました。


 りおちゃんは、それを指につけて、ペロッとなめました。


「ジャムだ!イチゴのジャムだよ!」


 イチゴの森にはイチゴ畑がありました。

 その前には、生クリームの川があって、まるですっかりおいしそうです。

 りおちゃんは、イチゴをつんでは、生クリームの川につけて食べました。

 よく見ると、練乳れんにゅうの池もあるではありませんか。


 りおちゃんは、「きゃあああああ。」とかけよると、白い馬にのった美しい王子様おうじさまが、こちらを見ていました。


「イチゴが好きなの?」


 りおちゃんは、王子様を、見上げました。


「顔中、クリームだらけで、君のほっぺの方がおいしそうだね。」


 りおちゃんは、たちまち真っ赤になって、本当に自分がイチゴになってしまったようでした。


「お城に来たら、よっておくれ。おいしいケーキをよういしておくよ。」

 

 そういうと、王子さまはいってしまいました。


 りおちゃんと、みーくんは、顔をあわせると、にっこりと笑いました。


「ケーキのお城に行ってみよう!」


 ケーキのお城は、近くで見ると、大きくて、大きくて、おっきくて。


 かざりのイチゴは、りおちゃんより、大きかったのです。


 お城の前には、門がありました。

 スカンクの門番が、二人で立っています。

 りおちゃんが入ろうとすると、持っていたヤリを、かっきーんとあわせました。


バツにして、通せんぼをするのです。


「お姫様ひめさま以外は通せません。」


「お姫様以外は通せません。」


「どうすれば、お姫様になれますか?」と、りおちゃんは、聞きました。


 門番は、交互こうごに話します。


「東の魔女まじょから、クツをもらって。」


「西の魔女から、ドレスをもらって。」


「北の魔女から、ティアラをもらって。」


「南の魔女から、祝福しゅくふくを受ければ、あなたは、たちまちお姫様になれるでしょう。」


 りおちゃんと、みーくんは、東の魔女にあいにいきました。


 東の魔女は、「つかれた、つかれた。」というのです。

「東の魔女さん、みーくんの上に、背中せなかを上にして横になって。」と、りおちゃんがいいました。

 東の魔女は、言われたとおりにしました。

 りおちゃんは、東の魔女の背中にポンととびのり、あしぶみをしました。


 りおちゃんは、お父さんのために、よくこうやってマッサージしてあげていたのです。


「あー、気持ちがいい!」


 東の魔女は、星のクツを、りおちゃんに、手わたしていいました。


「ありがとう。ありがとう。本当に体がらくになりました。お礼にこれをあげましょう。」


 美しいクツをはいて、りおちゃんと、みーくんは、西の魔女にあいにいきました。

 

 西の魔女は、「いそがしい、いそがしい。」というのです。


「西の魔女さん、私がお手つだいしましょう。」と、りおちゃんはいいました。


 西の魔女は、大なべをかきまぜるボウを、りおちゃんにわたすと、


「ぐるぐるぐるぐる、これをかきまぜておくれ。」といいました。


 西の魔女は、イチゴやリンゴ、イモリやカエル、変なこなやらを入れていきます。


「あー、これはらくをさせてもらった!」


 西の魔女は、星のドレスを、りおちゃんに手わたしていいました。


「ありがとう。ありがとう。本当に仕事がらくになりました。お礼にこれをあげましょう。」


 美しいドレスをきて、りおちゃんと、みーくんは、北の魔女にあいにいきました。


 北の魔女は、「さみしい、さみしい。」というのです。


「北の魔女さん、私が歌をうたいましょう。」と、りおちゃんはいいました。


  ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー♪


  ハッピバースデーディア北の魔女さーん、ハッピバースデートゥーユー♪


 りおちゃんは、ゆっくりと、気持ちをこめて歌いました。


 北の魔女は、星のティアラを、りおちゃんに手わたして言いいました。


「ありがとう。ありがとう。本当に心が楽になりました。お礼にこれをあげましょう。」


 美しいティアラをかぶって、りおちゃんと、みーくんは、南の魔女に会いにいきました。


 南の魔女は、「つめたい、つめたい。」というのです。


「南の魔女さん、ぬれた服をぬいでください。私のドレスを着てください。」とりおちゃんは言いました。


「それを着ないとお城の中には入れないよ。本当にいいのかい?」


「こまっている人に何かをすると、心が温かくなりました。だから、あなたが、温かいほうがいいのです。」




 南の魔女は、たちまち妖精にすがたをかえ、空から星をふらせました。


 クツもドレスもティアラも、もっとずっと、ごうかなものになって、りおちゃんは、本当のお姫様になったのです。




 りおちゃんとみーくんは、門番の前に戻りました。


「これはこれは、お姫様。」

「おかえりなさいませ、お姫様。」


 門が、おごそかに開きます。


 りおちゃんとみーくんは、ゆっくりと、お城の中へと入ってゆくのでした。


                                つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る