第67話 スラッシュ!

 一本道の坑道をアンと二人で走る。

 坑道に俺とアンの靴音が響き、俺を急かせる。


(いた!)


 アンさんのお父さんたちとミレットに追いついた。

 アンのお父さんたちが前衛を務めているのだが、坑道の出口から進んでいない。


 俺はミレットに声を掛ける。


「ミレット! 状況は?」


「コボルトが集まってしまい突破出来ません! 魔法を撃ちます! ファイヤーボール!」


 坑道の出口では、アンのお父さんたちが奮闘していた。

 ミレットが『魔法を撃つ』と宣言すると、アンのお父さんたちはサッと体勢を低くした。


 ミレットは、アンのお父さんたちの頭越しにファイヤーボールを通し、コボルトに命中させた。


「キャウン!」


 ファイヤーボールが直撃したコボルトは後ろに吹っ飛び煙になって消えた。


 とにかくコボルトの数が物凄い。

 五十? 六十? 数え切れない。


 坑道の出口なので、少人数で対処出来ているが、これではじり貧だ。

 ミレットの魔法も『焼け石に水』に感じられる。


 前衛の四人は荒い息づかいだ。


「クソ! キリがねえ!」


「あと、もう少しだ! ガンバレ!」


「突破……突破……」


「ダメだ! 力が出ねえ……」


 前衛の四人は疲労しているのだろう。

 動きに精彩を欠いている。


 ミレットとの連携はさすがベテランと感じたが、疲労困憊しては実力の半分も発揮できないのでは……。


 ちらっとミレットを見ると、顔には焦りがある。

 冷静なミレットが、額に汗をかいているのだ。


 俺はミレットを落ち着かせようと優しく声をかけた。


「ミレット。大丈夫だよ。俺が前に出るよ」


「ユウト……」


「突破口を作るからついてきて!」


「お願いします!」


 ミレットも元気を出してくれた。

 さて……やりますか!


「前衛を変わります! 突破します!」


 俺はアンのお父さんたちに声を掛けて前へ出る。


「す、すまん!」


 アンのお父さんたちが、スッと後退する。

 抑えていた盾役が急にいなくなり、コボルトたちがつんのめった。


「スラッシュ!」


 俺はバランスを崩したコボルトたちめがけて、スキル【剣術】の必殺技を放った。

 体がスキルに従って自動で動く感覚。

 グンと体が引っ張られ、踏み込むと同時に剣が斜めに力強く振るわれる。

 三匹のコボルトが消えた。


(これならいける!)


 必殺技を放つとポイントを1消費する。

 だが、敵コボルトは前方に固まっている。

 剣を振るえば嫌でも複数の的に当たる。

 必殺技でポイントを消費しても、お釣りが返ってくる。


 俺はすぐにショートソード返して、必殺技を発動する。


「スラッシュ!」


 今度は四匹のコボルトが消えた。

 前方に突破口!


「脱出するぞ! 続け!」


「「「「「「おう!」」」」」」


 俺たちはコボルトの海へ飛び込んだ。

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