第10話 ダンジョンで実習

 ――ダンジョンとは、諸悪の根源である。


 この話を聞いた時はビックリした。

 サオリママが話してくれたのだが……。


 昔々神様に仕えていた神獣がいた。

 しかし、神獣は神様を裏切って魔物となった。

 かつて神獣だった魔物は地上に降り、仲間を増やした。

 その時、拠点としたのがダンジョンだ。

 だから、ダンジョンには全ての悪が詰まっている。


 という昔話なのだが、魔物がダンジョンから発生するのは本当で、冒険者がダンジョンで魔物を間引かないとダンジョンから魔物があふれ出してしまう。

 あふれ出してしまった魔物は、魔の森に生息し数を増やし人を襲う。


「これより実習を行う!」


 タイソン教官の指示で冒険者パーティーがダンジョン一階層に散った。

 実習とはいっても自由にダンジョンを探索するわけではない。


 五つのグループに分かれて、それぞれのグループに教官がつく。


 俺とミレットはタイソン教官のグループだ。

 ダンジョン一階層の通路を左へ左へと進んでいく。


 俺たちのグループは三つのパーティーで、五人、五人、俺たち二人。

 そしてタイソン教官の十三人だ。


 十三なんてちょっと縁起が悪いが、ここは異世界だ。

 十三日の○曜日なんてない。


 ダンジョンは石造りの通路が続いていて、人が三人並んで歩くことが出来る。

 歩き出してすぐに魔物が現れた。


 額に鋭い角を持った大型のウサギ、ホーンラビットだ。


「よし! オマエたちから行け! 盾持ち! 前へ出ろ!」


 まず五人のグループがタイソン教官に指名された。

 木製の盾を持った男の子が、しかめっ面で前へ出る。


 ホーンラビットは、タッタッタ! と足音を響かせながらこちらに接近してくる。


 俺とミレットは、後方で観察する。


「こちらの人数が多いのに逃げないんだ……」


「知性の低い魔物は人と見れば襲いかかるそうです」


 ホーンラビットは、一直線に突っ込んできて、男の子が掲げる盾に激突した。

 ホーンラビットが盾にはじき返されダンジョンの床に転がる。

 盾持ちの男の子は必死で叫ぶ。


「お、おい! 俺が抑えているウチに倒してくれ!」


「わ、わかった!」


「えっと、どうするんだっけ!」


「剣! 剣だよ!」


「わー! わー!」


 パニックである。

 笑ってはいけない。

 絶対笑ってはいけない。


 初めての戦闘でみんな必死なのだ。


「やっぱり初めてだから怖いんだろうね……」


「ええ。わたくしたちもパニックを起こさないように気をつけましょう」


「そうだね。練習しておこう! 俺が盾を持っているから、こうしてホーンラビットを止めるよ」


「では、私が魔法を使ってホーンラビットを撃ちますね」


「討伐ポイントがなくても魔法が撃てるの?」


「はい。必殺魔法は討伐ポイントが必要ですが、通常の攻撃魔法はMPを使って魔法を撃ちます」


 なるほど。魔法は、そういうシステムなんだ。

 ミレットに確認すると、魔法は火魔法でファイヤーボールを十発撃てるそうだ。


「撃つ前に声を掛けてね? 俺が下がるようにするから」


「はい!」


 俺とミレットは後ろの方で自主トレを始めた。

 ホーンラビットがいる想定で、実際に体を動かしてみる。

 ミレットは真面目な性格のようで、俺と自主トレに付き合ってくれた。


 だが、真面目じゃないヤツらもいる。

 神殿で俺をバカにしたジャイルだ。


「ダハハハハ! ダセエ! ザコに苦戦してるよ!」


 ジャイルにタイソン教官から厳しい視線が飛ぶ。

 さすがにちょっと顰蹙だろう。


 ジャイルのパーティーメンバーから、『止めなよ!』、『悪いだろう!』とジャイルを注意する声が上がる。

 だが、ジャイルは腹を抱えて笑い続ける。


 最初のパーティーは、苦戦しながらもホーンラビットを倒した。

 ホーンラビットはダンジョンの床に倒れると煙になって消えてしまった。

 ダンジョンの床には、小さな丸い石が残った。

 ドロップ品だ!


「やったー!」


 最初のパーティーは丸い石を拾い上げ、大喜びで抱き合っている。

 タイソン教官が良くやったと褒め、戦闘で良かったところ、直すべきところを指摘する。


(結構ちゃんとした研修なんだな……)


 俺はタイソン教官の面倒見の良さに感心した。

 最初のパーティーは、ホーンラビットを倒したことで自信が付いたのだろう。

 顔つきがしっかりした。


 最初のパーティーを見ていたら、熱い気持ちが湧き上がってきた。

 俺も戦ってみたい!


 隣のミレットを見ると、ミレットも顔が上気している。


「ミレット! 次! 行こうか?」


「はい! 参りましょう!」


 俺とミレットは、次の戦闘に立候補した。

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