第7話 意外性の男(ドナ登場)
「よし! 次は三つのグループに分けて装備品を貸し出す! 戦闘スキルを持っている者は左へ! 魔法スキルは右へ! それ以外は中央だ!」
タイソン教官の指示で俺たち新人冒険者は三つのグループに分けられた。
まず戦闘スキルを持つグループは、四十人いた。
魔法スキルを持つグループは十人。
それ以外のグループは……俺一人だ。
(クッソ……)
予想はしていたが、外れスキルは俺一人。
タイソン教官は精一杯気を遣って『それ以外』と表現してくれたのだろう。
(それ以外! 以外上等だよ! 確か……『意外性の男』と呼ばれて活躍したプロ野球選手がいたはずだ。目指せ! 意外性の男!)
俺は、そんなことを考えながらボッチに耐えた。
訓練場には、大勢の制服を着た冒険者ギルドのスタッフが荷物を抱えてやって来た。
荷物は装備品だ。
新人冒険者で装備が全て揃っているのは、裕福な家の子供だけ。
五人いるので、全体の一割くらい。
一部だけ装備を身につけている子もいる。
剣道の胴のような革鎧だけを着ている子や革製のヘルメットだけかぶっている子もいる。
ちょっと古びているので、お兄さんのお古かな?
俺のようにボロ着で裸足の子はさすがにいないが、新人の半分くらいはズボンにシャツだけで装備は身につけていない。
冒険者ギルドのスタッフは、新人冒険者たちに装備品を手早く配っている。
戦闘スキル持ちのグループには、革鎧や剣。
魔法グループには、ローブや杖。
俺のところにも冒険者ギルドのスタッフがやって来た。
ストロベリーブロンドのサラサラした髪をなびかせ、カツカツとリズム良く訓練場の石畳を歩く。
メチャクチャきれいなお姉さんだ。
「どうも~。私はドナよ。よろしく!」
「ユウトです! ドナさん、よろしくお願いします!」
きれいなお姉さんはドナと名乗った。
「うん! 元気で礼儀正しいわね! スラムの子にしちゃ珍しいわね。じゃあ、装備を見繕うわよ。オーソドックスに剣士の装備で良いかしら?」
「はい! お願いします!」
「じゃあ、ついてきて」
ドナさんは、戦闘スキル持ちのグループへ歩き出した。
戦闘スキルグループの中央に、冒険者ギルドスタッフが持ってきた装備品が山のように置いてある。
ドナさんは、装備品の山に近づくと、パパッと装備品をつかみ出した。
「革鎧はこれね。剣は……ユウト君は体が小さいから、この短めの剣が良いかな。ベルトはくたびれているけど、サイズが合うのを……。ブーツは……あら! ラッキー! 新しめのブーツがあるわ!」
ドナさんはポンポンと俺に装備を投げて寄越す。
俺は慌てて装備を身につけていく。
(スゲエ……体にピッタリだ!)
一見するとドナさんはテキトーに選んでいるように見える。
だが、測ってもいないのに俺の体にピッタリの装備を選んでいた。
ドナさん……実は凄い人なのかも!
戦闘スキルグループの男の子が、ドナさんにクレームをつけた。
「ちょっと! アンタ! それは俺たちの装備でしょ? コイツは外れスキルなんだ! 戦闘スキルを持った俺たちを優先してくれよ!」
ドナさんがピタリと手を止めて、クレームをつけた男の子に振り返った。
ジッと男の子を見て、無言で圧をかける。
男の子が一歩下がった。
「私はドナ」
「えっ……?」
「ド・ナ。アンタじゃないわ」
「す、すいません、ドナさん……」
「よろしい。で! 俺たちを優先しろぉ? あーはー? 面白いことを言うのね。いいこと。あなたたちは新人冒険者。あなたも! あなたも! あ~な~た~も~!」
ドナさんはクレームをつけた男の子の前にグッと体を寄せ、指をグルグル回した。
超セクシー。
男の子は顔を真っ赤にしている。
「私たち冒険者ギルドにとって、新人冒険者は平等に扱わなきゃいけないの。だから~、この子にも~装備品を~貸し出すのよ~。お・わ・か・り?」
「ふぁい……わかりますた……」
男の子は、ぽーっとして鼻血を出してしまった。
わかり『ますた』じゃなくて、『ました』だろう。
ドナさんは、一丁上がりとばかりに手をパンパンとはたく。
「ユウト! こっちに来て! 続きよ!」
「はい!」
ドナさんが、手早く残りの装備を選んでいく。
「えっと……。ヘルムは、この革の帽子が良いわね。あとは、このショルダーバッグをぶら下げときなさい」
「ありがとうございます。あの、これって貸し出しですよね? 料金は?」
「無料よ」
「良いんですか?」
「これはね。死んだ冒険者の装備品なの」
「あっ……」
そうか……。
だから無料で貸し出してくれるのか。
「メンテはしてあるけど、中古だから防御力は落ちるわ。頑張ってお金を貯めて新品を買いなさい」
「ドナさん。アドバイスをありがとうございます」
「いい? 戦闘スキルがなくても、腐らずがんばるのよ。しっかりやりなさい!」
「ええ! 意外性の男を目指しますよ!」
「何よ? 意外性の男って?」
ドナさんはキョトンとした。
俺は指をさして説明する。
「戦闘スキルのあるグループ。魔法スキルのあるグループ。それ以外の俺」
「だから意外性の男!? あはは! 言うじゃない! 期待してるわよ!」
ドナさんが、俺のお尻をパーンと叩いた。
気合い入った!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます