第6話 サオリママを侮辱するな!

「さっきからうるせえよ! 外れスキルのクセに出しゃばるな!」


 神殿で俺をバカにした太った男の子は、きれいな革鎧を身につけていた。

 腰には剣をぶら下げて、一人前の冒険者の格好をしている。

 きっと親に買ってもらったのだろう。


 俺はキッとにらみ返す。


「わからないことを質問して何が悪い? 俺たちは新人冒険者なんだ! 当然のことだろう?」


 昨日は、コイツに『外れスキル』と言われたことで動揺してしまったが、今日は落ち着いている。

 俺のスキル【レベル1】は一見外れスキルだが、実は当たりスキルだとわかっているのだ。

 卑屈になる必要はない。

 俺は太った男の子に正対して胸を反らした。


「はあ? 俺たち? 一緒にするなよ! オマエはスラムの外れスキル野郎だ! さっさとスラムに帰れ! バーカ!」


 子供っぽい煽りにカチンときた。

 まあ、相手は十三歳の子供だ。

 前世で言えば中学一年生。

 俺は転生して十三歳だが、中身は社会人の大人なのだ。

 冷静……冷静……。


「冒険者になれば、どこの出身だろうが関係ない! 魔物を倒すだけだ!」


「いやあ……関係あるね! オマエはスラムの外れ野郎だ! 母親も外れなんだろうな!」


 太った男の子は、俺を小突いた。

 俺だけでなく、サオリママもバカにしたな?


 俺は表情を険しくして、太った男の子に詰め寄る。

 男の子は体格が良く俺よりも頭一つ大きい。

 俺は男の子を見上げながら怒鳴った。


「取り消せ! 母さんを侮辱するな!」


「ハハハ! 怒ったのか? オマエのかーちゃんはハズレだ! 親子揃ってハズレだ!」


 太った男の子が、ニヤニヤ笑いながら俺を突き飛ばした。

 俺はバランスを崩して尻餅をついた。


「スラムに帰れ! ハズレ野郎! ハズレかーちゃんのオッパイをしゃぶってろ!」


「言ったな!」


 俺は頭に血が上った。

 サオリママは女手一つで俺を育ててくれたのだ。

 俺はサオリママの苦労を知っている。


 俺のことを悪く言うのは良い。

 耐えられる。


 だが!

 サオリママの悪口は!

 絶対に許さない!


「取り消せ! デブ野郎!」


 俺は立ち上がると、太った男の子にタックルをかました。


「グフッ……!」


 俺の頭が太った男の子のみぞおちに入った。

 男の子は息を詰まらせて倒れる。


 俺は馬乗りになるが、男の子が俺の腹を蹴った。

 俺は後ろへ吹き飛ばされる。


「ジャイル! 負けるな!」

「外れ野郎をやっちまえ!」


 太った男の子に声援が飛ぶ。

 俺と太った男の子は立ち上がると組み合いになり、また地面に倒れゴロゴロと転がった。


「貴様ら! 止めんか!」


 タイソン教官が俺と太った男の子の襟首をつかんで強引に離れさせた。

 物凄い力だ!


「全員聞け! 冒険者同士のイザコザは御法度だ! 冒険者ギルドの規則で禁止されている! 罰を受けることになるぞ! もめごとを起こすな! わかったな!」


「「「「「はい!」」」」」


 タイソン教官が、新人冒険者全員に注意を与えた。

 どうも俺がしたことは良くないことだったらしい。

 だが、先に手を出したのは太った男の子の方だし、サオリママを侮辱したことは許せない。

 俺に後悔はない。


「オマエ名前は?」


「ユウトです」


「オマエは?」


「ジャイル」


「ユウトとジャイルは罰走! 訓練場を十周!」


「「ええ~!」」


「行け! 走れ!」


 俺と太った男の子――ジャイルは、ケンカをした罰として訓練場を十周走らされた。


「ゼイ……ゼイ……外れ野郎の……せいだ……」


「ジャイル! オマエが俺の母親の悪口を言ったからだ!」


「クソッ……外れ……野郎の……クセに……」


 訓練場を十周してジャイルはゼイゼイと肩で息をしている。

 俺は平気だ。

 毎日素振りをして、スラムの中を裸足で駆けずり回っていたのだ。

 体は小さいが、十三歳の割には体力があると思う。


 俺が腰に手をあてて呼吸を整えていると、タイソン教官が近づいて来た。


「息が苦しくないのか?」


「大丈夫です。このくらいなら、すぐに呼吸が整います」


「ほう! 鍛えていたのか?」


「ええ。俺はスラム出身で何も持っていません。でも、母が授けてくれたこの体があります! この体で冒険者として成功するのです!」


「ふむ……その心意気は悪くない。励め! もう一度、オマエの名前を聞いておこう」


「ユウトです!」

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