流れ着いた南の島、女の子たちと俺でのんびりサバイバル生活
野島製粉
第1章 南の島へようこそ
第1話 南の島へ
いつもの夕食の時間、俺は両親と一緒に食事を楽しんでいた。リビングのテレビから、レポーターの女性のどこかハイテンションな声が聞こえてくる。
「……天文台の発表によりますと、この2015年の5月に奇跡の天体ショーが観測できるとのことです。地球近くを通過する彗星のチリによって、おびたたしい数の流星が地球に降り注ぐそうです。これはですね、様々な偶然が重なって……」
俺たち家族は、食事の手を止めてテレビに注目した。うちの家族は、結構こういう話題が好きなのである。旅行などにも、よく出かける方だろう。去年の夏休みなどは、きれいな星を見るために山に登った記憶がある。
「……ところがですね、残念なことに、この奇跡の流星群は緯度の低い地域、つまり南の地方でないと見ることができないそうです。専門家によりますと、日本本土からはまず無理だろうということです」
なあんだ、と母さんはため息をついた。俺と父さんは、母さんが作った料理に向き直る。
「……ですが、朗報があります。日本国内であっても流星群を見ることができる場所があるんです。みなさんは、
どこか得意げなレポーターの声に、俺たち家族は再びテレビに注目した。
「そして、私が現在お邪魔している……島でもバッチリと観測できるそうなんです。南の方に位置するということで、まだ4月なのにTシャツ1枚で十分なぐらいの温度ですね。現在、この島では流星群の飛来にあわせて急ピッチで宿泊場所を用意しているそうですよ。流星群がやってくるのは、ちょうど5月の連休ですから、みなさまも検討してはいかかでしょうか」
俺たち家族は、誰ともなく顔を見合わせた。しばらくして、父さんが口を開く。
「
「学校なんだから、カレンダーどおりだよ」
「ふむ、それもそうか」
何やら考え込む父さんに、母さんはため息をついた。
「学校より、あなたの会社の休みの方が問題でしょ」
「そうなんだが。ううむ、少し調整すれば……」
父さんと母さんは、あれこれと打ち合わせを始めた。
もしかすると、5月の連休は南の島で過ごすことができるかもしれない。俺は、わくわくしながら両親の会話を見守るのだった。
***
5月の連休、俺たち家族は流星群を見るために南の島へと向かうことになった。
港から船に乗ると、それだけでテンションが上ってしまう。普段は口数の少ない父さんもどこか浮かれているようだったし、母さんはにこにこと上機嫌だった。南の島への旅行は順調にスタートしたのである。
だが、夜になると文字通り雲行きが怪しくなってきた。雨と共に風まで強くなってきて、船が大きく揺れる。嵐が去るまでの我慢だと思っていたが、不意に強い衝撃が船を襲った。
船員が慌ただしく走り回り、緊迫した様子のアナウンスが流れる。戸惑う俺と母さんに、父さんが冷静な様子で声をかけてきた。
「こういうときこそ、落ち着いて行動しなさい。船のスタッフはプロだから、彼らの指示に従おう。どうやら、船が何かに衝突したようだが……」
俺たち家族は、念のため上着を着て靴を履く。そこに再びアナウンスが流れる。荒れた風の音で聞き取り難かったが、父さんは顔をしかめた。
「浸水が始まったらしい。すぐに沈むわけではないが、乗客は救命艇に移るようにとのことだ。……くれぐれも落ち着いて行動しなさい。救難信号は既に発信されているから、救助は必ず来る」
ちょうど船員が誘導にやってきたので、俺たち家族は他の乗客と一緒についていく。
甲板に出ると、強い風が吹き付けてきた。空も海も真っ黒で、船体は不規則に揺れている。だが、意外に恐怖は感じなかった。なんだか映画の場面のようで、現実感があまりないのである。急な展開に頭がついていっていないのかもしれない。
それでも、救命艇が海面に降ろされると、大変なことになったという想いがわいてきた。間近にある暗い海面は、不気味で何でも飲み込んでしまいそうな雰囲気がある。
「救命艇って思ったよりもしっかりとしているのね。もっと小さなボートみたいなものだと思っていたわ」
母さんが感心したように言った。それを聞いた父さんが苦笑いする。
「緊急時に命を預けるものだから頑丈に作ってあるよ。確かきっちりとした設置基準が……ん?」
不意に、風にまぎれて何か声が聞こえたような気がした。誰かが海に落ちたのだろうか。俺は、思わずボートのふちから海面をのぞき込んだ。
「何も見えないな。……あっ」
いままでに感じたことのない大きな波が、救命艇を持ち上げるように揺らした。
身体が浮き上がるような感覚がある。しまった、と思ったときには、身体は水中に落ちていた。
冷たく暗い水の中は、外と同様に荒れていて上下すらよくわからない。まるで洗濯機の中にいるようだ。何とか水面を目指そうとしたが、激しい水流に身体が引っ張られていく。
遠くで母さんと父さんの呼ぶ声が聞こえた気がしたが、俺の身体は救命艇からどんどんと引き離されていった。
***
気がつくと、驚くほど澄み渡った青空が目に入った。
身体を起こそうとすると、服から砂がパラパラと地面に落ちていく。
どうやら、俺は砂浜に倒れていたようだ。砂を払い落としながら立ち上がると、目の前に真っ青な海が広がっていた。吸い込まれそうな美しい青色だ。それでいて、浜辺に打ち寄せる波はきれいに透き通っている。後ろを向くと、なにやら熱帯ぽい木々が生い茂る緑色の山が目に入った。
ここはどこかの島なのだろうか。海岸は岩がところどころにあって、遠くまで見通すことができない。身につけていたはずの救命胴衣は、いつの間にか無くなっている。目の前の、いかにも南国という明るい風景と、荒れた嵐の夜とがつながらない。
俺は、ぼんやりと風景を眺めていた。何か行動を起こさなくてはならない気はするのだが、流された影響なのか頭がうまく働かない。
ふと、波打ち際で何かが動いたような気がした。目を凝らしてみると、俺と同世代ぐらいの女の子が海の方を向いて立っている。
彼女のポニーテールにした長い髪が、潮風にあわせて揺れていた。
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