予想外
俺は朝学校に登校して自分の席につき、読みかけだった本を読み始めた。
俺は自分で弁当を作っている関係上、朝早くから起きている。だから必然的に学校に来るのが早くなる。別に弁当を作った後家でのんびりすればいいじゃないかと思われるかもしれないが、家にいたってすることが無い。それにギリギリになって焦りたくないからな。だから俺は毎朝早くに登校する。
早朝の教室はとても静かだ。まるで世界に自分一人だけしか居ないような感覚に陥る。俺はこの雰囲気が嫌いじゃなかった。異様な程静かで誰の気配もない。この空間なら純粋に本を楽しむことが出来る。
しばらくするとポツポツと俺以外の生徒が登校してきた。そうなると先程までの静けさは無くなりガヤガヤと騒がしくなり始める。もう少しあの心地いい静けさの中に溶けていたかったが仕方ない。これはこれで活気があって嫌いじゃないしな。
ふと辺りを見渡すといつの間にか清水が登校していて自分の席についていた。い、いつの間に…
そんなことを思っていると清水が俺の方を向いてきた。バッチリと目が合う。すると清水は微笑を浮かべながら小さく手を振ってきた。
俺も手を振り返そうとしていると
「おはよう、蒼緋」
俺の目の前に旭がやってきて挨拶をしてきた。
「は?え?」
予想外の出来事に固まってしまう。
「もう。おはようって言ってるでしょ?おはよう。蒼緋」
もう一度言われてようやく自分が旭に挨拶をされているということに気づいた。
「お、おはよう」
だが思考が上手く回らずそう言うのが精一杯だった。
「うん」
俺が挨拶を返すと旭は満足そうに頷きながら俺の前から去っていった。
「え?あいつって確か…樂間?だったよな?」
「高嶋さんに挨拶されるなんて…一体どんな関係なんだ?」
「それに見たかよ高嶋さんのあの顔。めちゃくちゃ嬉しそうだったぜ?」
旭のやつ何考えてるんだ?どうして今更になっていきなり話しかけてくるんだ?昨日は誰も居なかったから話せたんだ。それなのに今日は教室で普通に話しかけてきた。さすがに口調は素ではなかったが。
「なんで樂間君に挨拶してたの?」
「ん?あぁ、私蒼緋と幼馴染なの」
「え?そうなの?」
「うん。だから普通に挨拶しただけだよ」
「へー。でもこれまでそんなことしてなかったよね?」
「え?あー…してたよ?ただ廊下とかでしてたから気づいてなかっただけじゃない?」
考えても旭が何を考えているのか分からない。あ、そういえば清水に手を振ろうとしてたんだった。
そう思い清水の方を見ると清水は既に本に目線を向けていた。だが本を読んでいる清水の表情はいつもと違ってどこかつまらなそうな表情だった。
どうしたんだ?ストーリーが面白くないのか?
そんなことを思いながら俺も本に視線を戻す。
そうして昼休みになった。俺は弁当を持って席を立った。そして今弁当を取り出している清水の元に向かった。
「清水」
俺がそう名前を呼ぶと清水は俺に顔を向けてきた。
「樂間さん、どうしたんですか?」
そう言った清水はどこかいつもより表情が硬い気がした。
「お昼また一緒に食べないか?」
俺がそう言うと清水の顔が明るくなった。さっきのは気のせいだったのか?
「し、仕方ないですね!友達の居ない樂間さんと一緒に食べてあげましょう!」
「あぁ、頼むよ」
俺は笑いながらそう言った。
昼ごはんを食べるために庭に向かおうとして教室の扉を出ようとした時、また視線を感じた気がした。だがやはり誰も俺のことを見ていなかった。ただの思い過ごしか。
あとがき
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