プロット

@Yoyodyne

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なめくじの通る隙間もないくらい混み合ったカフェで窮屈そうに佇みコーヒーをすする色褪せたコートを着た男

最早ここから数センチも身体を動かす事ができなくなった男がこの話の主人公である

男はカフェインの作用か落ち着きがない

ここに閉じ込められて数日が経つ

手元にあるカップに入っているコーヒーは幾ら飲んでも一向になくなる気配がない

周囲の人間の汗やよだれのような分泌液が入ってしまってぬるく搾りたての雑巾のような味になってしまっているが何もないよりはいい

不思議な事に圧迫感はあってもこれを啜っていれば腹は減らない

コートを着た男:私はただ家族にまだ仕事を続けてると思い込ませるためにこのカフェで時間を潰そうと思っただけなのに

今がいつかもわからない

今頃私の家族は私の賃金が心配で勤め先に電話をかけているだろう

そうなってはもうおしまいだ!ここで一生閉じ込められている方が幸せなのかもしれない

禿げ上がった中年男性:辛いなら死んでしまえ!

俺が自由に動ければこの手でお前をこの世からお払い箱にできるのに!

自分の命を自身で終わらせることもできない自殺弱者のクズが!俺が殺す意志があるだけでも感謝するんだな!

この男はここに来てからと言うもの死ねと殺してやる以外の意味を持つ文章を発したことがなかった

これだけで日常生活の全てのコミュニケーションを成り立たせているのだろうか

このハゲと罵りあってる間も床に溢れているマスタードは踏みつけられ塗り拡げられていく

しかし、その毒々しい原色味はどれだけ薄く引き伸ばされても失う事はなかった

*不快なヒソヒソ声のざわめき*

*それが時々大きなどよめきに変わったと思ったら耳をつんざくような悲鳴が聞こえてくる*

人間がこの空間でできることは限られてて大抵下らない人を陰鬱にするような出来事だろう事が容易に想像つくのになぜ興味がわいてしまうのか

耳元では教授風の男がナチスの無味乾燥で辞書的な知識をボソボソと唱え続けている

この男はちらっと見た限り(この手合は目を合わせないに限る)ヤブ睨みでどの強い眼鏡をかけた━ホコリの凝固したものだろう━灰がかった元白衣を着ているようだ

教授:…まだ覚えてる…国会議事堂放火事件が起きたとき、ゲーリングが壮大な共産主義ネットワークの陰謀の物語を創って、物的証拠もないのに、ディミトロフを死刑にしようとして、失敗したこと、ナチスの実効支配が完璧ではなかった1933年…長いナイフの夜はその1年後だ…コートを着た男:わたしはふと疑問に思った。話していることが次から次に飛び、論理立てられた説明というより煽情的なアジテーションだ。この男はただの灰白衣を着たナチスマニアでないのか?ナチスマニア:法的手続きの簡略化さえ達成されれば、証拠は要らなくなる。…東部戦線はドイツではT4作戦をソ連では大粛清を停止させた…コートを着た男:声はうわずり、段々と哀願しているかのようになる。この男の声の調子はこのように感傷的になったと思ったら、無表情になり、かと思ったら地の果てまで沈み陰鬱に━この状態になると最早聞き取れない━なる…ナチスマニア:…諸君、われわれはただ、平和を恒久の平和を希求しているだけだ。国家の総力的個体化…民族と云うものは尊重するべきだが形式的観念的な目標にすぎない。2つの石鹸が合わさって一つになり、その石鹸がまた一つになる。われわれは大きな石鹸になる必要がある。これら可能性を現実化するのがわれわれのそして諸君の行動なのだ。コートを着た男:諸君とは誰だ?これでは不出来なガウライター❲地方党員の長らしい❳の演説だ…もうこのパートは5回は聞いている。この男は話を何度も何度も同じ内容をループさせる━独り言とは得てしてそういったものかもしれないが━しかも、話す度に情報が食い違う…ナチスマニア:…ヒトラーは言う。ヴィーンの修練時代わたしは貧しかった。あの頃は、アーリア生存圏は苦境に置かれ脅かされていた、まともな石鹸なんてなかった。どんな生物の脂でつくったかわからない劣悪な石鹸は…それで洗うと手が汚れるため逆石鹸と蔑まれていた…まだ覚えてる。レームが死んだその日を、彼はヒトラーが自分を殺すように言い、銃を向けた執行人に踊りかかり彼を英雄的革命行為、すなわちレイプしようとしたのだ…」

他の客たちは何も聞こえていないかのように平然としている。

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