第16話 ファイアおじさんが羨ましかった!

 屍のメスガキをわからせた俺たちは、次にどこへ行くという当てもなく船であちこち彷徨った。そうしてたどり着いたのが、南極海近くにある大陸ヒョーガキランドだ。


 見渡す限り雪と氷、ゴツゴツした岩に覆われた大地を進んでいくと、何やら大きな塔が見えてきた。いや塔というよりも、むしろ外観は巨大なタワーマンションそのものといっていい。建物の入り口には『ヒョーガキヒルズ』と書いてある。


 何でこんなところにタワマンが?


 そんな疑念を抱きつつ早速中へ入ってみるが、タワマンの部屋には誰も居住していないのかまるで人の気配がない。


 とりあえず、俺たちはエレベエーターを使って最上階まで行ってみると、そこにはペントハウスのようないかにも豪華そうな部屋があった。ドアもしっかりとしたもので、中の様子は全く窺い知ることができない。


 ていうか今さらだけど、ここまで簡単に来れちゃうここのセキュリティってどうなってんだ?


 それはともかく、ここは正攻法とばかりに俺は備え付けのインターホンを押してみる。だが中からは返答がない。と思ったら、ガチャリとドアのロックが解除された音がした。


 恐る恐る中へ入ってみると、内部は最上階のワンフロアを丸々使ってあるかのような贅を尽くしたメゾネットの住居となっている。部屋数もいくつあるのかわからないくらいだ。


 その中で一つだけ異質なドアを見つけた。どう見ても子供部屋のようなオーラを醸し出ている。この中に俺らと同類の奴がいると直感的に悟った。


 ドアに耳を押し当ててみると、案の定お取り込み中のような物音が聞こえてきた。何だろう、この安心感。


 俺たちは少しだけ待ってやってから中に入ったのだが、そこで見た光景に驚愕した。

 

 部屋の壁一面に無数のモニターが備え付けられており、そこにはメスがキをわからせている映像が映し出されている。そして部屋の中央には、いかにも氷河期そうなでっぷり太ったパンイチ姿のおっさんが、豪華な椅子に身を委ねて賢者になっていた。


 だが俺たちが驚いたのはそのことにではない。何とこのおっさん、あろうことか何人ものメスガキとみられる可愛い女の子を侍らせているじゃないか!


 ぐぬぬ……。何ともうらやまけしからん!


「やぁ君たち、よく来たね。歓迎するよ。お腹空いてないかい? まずはピザでも食べようか。あ、チーズ牛丼の方がいいかな?」


 オットマン付きの椅子をリクライニングさせて横になっているような状態のおっさんが、近くに侍るメスガキにピザとチーズ牛丼を用意するように伝えた。


「はぁ? めんどくせーな♡ そんなんばっか食ってるからデブなんだろうが♡」

「あたしらみたいな幼い女の子をオカズにしてるとか大人として恥ずかしくないの?♡」

「イカくせーから、アレした後の始末くらい自分でしろよカス♡」

「うわっ、煽られておっきくなってるし♡ キモっ♡」

「エアコンの温度もっと下げろ?♡ 暑くねーのになんでそんな汗かいてんだよ♡」

「とりあえず、くせーからお風呂入ろうな♡」 


 おっさんは侍らせているメスガキどもから口々に煽り散らかされている。にもかかわらず、にへらと嬉しそうにしているおっさん。


「ワ、ワシらもあんな風に煽り散らかされてみたいもんじゃのう……」

「メスガキに囲まれて煽られまくる……。何やらランコーダでのことを思い出しますね」


 目の前の光景にヤライソとシコルが鼻息を荒くしている。


 お前ら……と言いたいところだが、じつは俺もちょっと羨ましい。


「コドージ殿はどのメスガキがお好みですか? 私はあの子などが……」


 侍っている中では一番幼そうな、JS4~5くらいにしか見えない薄緑の髪色をしたメスガキに視線を向けたままシコルが耳打ちしてきた。


 さすが俺たちパーティーの中では筋金入りのロリコンだけあって、シコルはいつも限界ギリギリのところを攻めてくる。ちなみに、俺のストライクゾーンはJS6~JC1くらいだと敢えて言っておこう。


「ワシァ、若けりゃ何でも……」


 はいはい、わかったわかった。ヤライソが言いかけたのを俺は遮った。若ければ何でもいいというは下の下だ。そんなのは全然萌えないし、わからせおじさんとしての沽券に関わる。これは後でヤライソへの再教育が必要だな。


「はんっ、ばかばかしい。メスガキなんてどれも同じよ。あいつら、ただ若いってだけでチヤホヤされて……」


 トヨーコが目の前のメスガキに憎悪をむき出しにしながら吐き捨てた。まぁババアのお前には絶対にわかるまい。


 それはさておき、こいつは一体何者なんだ? こんな辺鄙なところに建つ巨大なタワマンに暮らしていて、しかも多くのメスガキを侍らせているなんてただ者ではなさそうだが。


「僕はヒカワ・レイトブルーマー。ブルマじゃなくてブルーマーだからね。でもブルマっていいよね。男にとっては永遠のロマンだ。それなのに、なんでブルマを廃止しちゃうかな……ぶつぶつ」


 おっさんは侍らせたメスガキに介助されて上体を起こしながらもぞもぞと話しかけてきた。


 名前のヒカワは氷河で、レイトブルーマーってのは要するにニートってことか。つまりこいつも、れっきとした氷河期の引きこもりおじさんというわけだな。


 それにブルマについては俺にも思うところがある。こいつは案外話の通じる相手かもしれない。


「ん? 僕が何者でどうしてこんな暮らしをしているのかだって?? 僕は君たちと同じで、日本から転生してきたただの氷河期の引きこもりおじさんだよ」


 あ、いや、それは見ればわかるっての。このおっさんの語るところによると、今の暮らしはデイトレや仮想通貨で大儲けしたからだという。そして金と時間が有り余るファイアおじさんのやることといったら、メスガキを侍らせることくらいしかないとのたまりやがった。


 色々とつっこみどころがあるものの、こいつのこうした生活はじつに理想的だ。


「僕はもうやりたいことは全部やり尽くしてしまった。だからどれだけメスガキに煽られても、どれだけメスガキをわからせても、もう僕の心は満たされないんだ……」


 どれだけわからせても心が満たされないって、ある意味わからせ廃人みたいなものだな。


「そこで君たちにお願いがあるんだけど、世界中に散らばるメスガキにまつわるアイテムを集めてきてもらいたいんだ。そして僕にまたわからせの素晴らしさを思い出させて欲しい」


 ファイアおじさんは巨体を揺らし這うようにして俺のところまでやってくると、足に縋りつき涙ながらに懇願した。そしてもしそれらのアイテムを集めてきたなら、魔王を知る重要な人物を紹介するという。


「メスガキにまつわるアイテムってこういうのでいいのか?」


 俺は屍のメスガキからもらった《メスガキのスク水》を取り出して見せた。


「それそれ、そういうの! って、あれ? それって海底の洞窟にいたメスガキちゃんのスク水じゃないかい??」


 聞けばこのおっさん、かつてあの屍のメスガキのお世話になったことがあるのだという。


 おいおいあのメスガキ、しっかりやることやってたんじゃねーか!


 てことは俺、このおっさんとは兄弟ってことになるのかよ……。


 こうして俺は複雑な気持ちになりながらも、ファイアおじさんの依頼を引き受けて、メスガキにまつわるアイテムを探し求めることになったのだった。

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