第2話 メスガキの女王をわからせ……られなかった!

 それはこっちの世界へ転生させられた俺が、40何回目かの誕生日を迎えた朝のことだ。


 あれ? もしかしたら、もう50回を超えているかもしれない。


「コドージ! 出てきなさい、コドージ! もう部屋に引きこもって40年よ!」

 

 ……っせーなぁ。


 俺は母親の怒声と部屋のドアをガンガンと叩く音で目が覚めた。


「今日は女王陛下にお目通りして冒険の許可をもらう日でしょ! もうずっと先延ばしにしてるんだから!」

「うっせーな! そんなの行かねーつってんだろうが!」

「どうしても出てこないっていうのなら、このドア叩き壊すわよ!」

「あぁ? やれるもんならやってみろや!」


 ――ドガッ! ガンッ! バキッ!


 部屋のドアがあっさり蹴破られた。


 そういや、俺のかーちゃん元女戦士だったわ。しかも、70過ぎてもドアをぶち壊すほどの怪力って……。


「ほら、コドージ! さっさと支度しなさい!」


 こうして俺は子供部屋から叩き出されて、女王に謁見するためヤダーハンのお城へと無理やり連れていかれた。


「きゃはは♡ お前が勇者ヤリテガの息子コドージ?♡ ただのおじさんじゃん♡ マジでウケるんだけど~♡」


 謁見の間で女王陛下に拝謁した俺は、初対面でいきなりこんな風に馬鹿にされた。


 女王は前世でたとえると、年の頃はその華奢な身体つきからまだJS5、6あたりだろうか。ふわっふわな赤毛の髪に王冠をかぶり、きらびやかな衣装を身に纏っているものの、どう見ても小生意気なただのガキだ。


「ていうか~、何か臭くね?♡ こっちまで洗ってない犬のような臭いがしてくるんだけど~♡ お前、どんだけ風呂入ってねーんだよ~♡ きゃははは♡」


 女王はつんと尖った形のいい鼻を指でつまみながら笑い転げた。


 な、なんだ、このクソガキ!? いや、こういうのをメスガキというのか。


 そ、そりゃまぁ、確かに女王様の言う通り、もう一か月くらい風呂には入ってないけどさ……。くんくん、そんなに臭う?


「つーかさ、子供部屋に引きこもってるおじさんだから、コドージって名前なの?♡ なぁ、絶対そうだろ?♡ きゃははははは♡」


 こいつ、人の名前を笑いやがって。でも前世も含めて、ずっと子供部屋に引きこもっていたのは事実だから反論できない。


「ま、いーや♡ もう話は聞いてると思うけど~、何だかフドーイセイコーとかいう魔王がいるらしくてさ~、そいつをお前の親父のヤリテガが倒しに行ったんだけど~、何か死んじゃったみたいじゃん♡ クソざこ過ぎるだろ~♡」


 ちょ、俺の親父をクソざこ呼ばわりしやがったぞ、このメスガキ!


「だからさ~、ヤリテガの跡を継いで魔王をさくっと退治してきて欲しいんだよね~♡ ま、お前もクソざこそうだから全然期待してないけど~♡ きゃははははは♡」


 ぐぎぎ……、こんのメスガキ! わからせたい! こういうメスガキは徹底的にわからせてやりたい!


 そう言えば、この世のどこかにメスガキをわからせることができる伝説の道具《わからせ棒》ってのがあると聞いたことがある。


 もしこの俺にその《わからせ棒》があれば、こんなメスガキなんてすぐにわからせてやるのに!


 そう思ってぐっと拳を握りしめると、目の前にウインドウが浮かび上がった。


 そのウインドウ内のちからを見てみると、レベル1、ちから2、すばやさ1、最大HP10、最大MP0、攻撃力2、守備力1とある。


 そして道具一覧には、今着ている布の服しか持ち物がなかった。所持金も0だ。


 やっぱりこれが現実か。ヤバい、こうして現実を目の当たりにすると何だか死にたくなってきたわ……。


「レベル1って超ウケるんだけど~♡ ステータスもざこ過ぎる~♡ そんなんで魔王倒すって無理ゲーだろ~♡ きゃははははは♡」


 腹を抱えて笑うメスガキ女王が玉座から転げ落ちそうになる。だがその拍子に、淡いピンクのおパンツが見えた。こいつはラッキースケベだ。


「あまりにクソざこ過ぎて泣けてきたからさ~、お前にそこの宝箱の中のものやるよ♡」


 そう言ってメスガキ女王が玉座の脇にある重厚そうな宝箱を指し示した。


 ――ガブリ。


 言われるがまま宝箱を開けてみると、それはなんとミミックだった。


「あれ? 死んじゃった??♡ 悪ふざけのつもりだったけど、これくらいで死ぬってマジでウケるんだけど~♡ ざ~こざ~こ♡」


 薄れていく意識の中でそんな言葉が聞こえてきた。


 こいつ……。このメスガキも絶対に、いつか絶対にわからせてやるぞ!

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