第3話 新しい執事たち

12月、元族長の父は本家を出て枇杷亭に移った。

龍希たちの住まいが本家の族長居住スペースになるので、枇杷亭を父に貸すことにしたのだ。

枇杷亭は元々は祖父の住まいで、父が産まれて成獣するまで過ごした屋敷でもあるらしい。

父に貸すなら龍希も安心だ。

すでに妻はおらず、本家で一年以上脱け殻状態になっていた間に竜湖が使用人の整理もしていたそうで、父の引越しは3日で終わった。


これから本家の族長居住スペースの改装だけど、一番時間がかかるのがリュウカの部屋だ。

何せ25年以上も使われていなかったのだ。

だけどこれからは大切な妻子が一日の大半を過ごす部屋だ。

一番金と時間をかけて快適な住まいにしたい。

妻は子どもたちと侍女たちと一緒に壁紙やカーペット、カーテンを楽しそうに選んでいる。


リュウカの部屋からすぐの中庭には、妻の好きな桜の木を植えて、水遊びが好きな息子のために池を作って、妻と娘が好きな花を植えるための花壇を作ることにした。

中庭は枇杷亭の庭よりは狭いが庭師の穏は生き生きとして作業している。

庭のことはあいつに任せておけば間違いない。

ただ、他にも中庭はあるし、さすがに穏1人じゃ無理だな。

庭師の補佐を用意しねぇと。


それに侍女が全く足りない。タタ、タート、ナナ、ニニは妻子の侍女にして、あらたに掃除係や洗濯係、運搬係、調理補助係などは本家の中堅侍女にやらせることにした。

教育はカカに任せておけばいいし。

本家の奴らは信用ならないが、子どもが3人になったし、族長居住スペースは枇杷亭の2倍以上の広さがあるので、増員せざるをえない。

それに執事も・・・



~新族長執務室~

「あんたは腹を括ると行動が早いから助かるわ。」

竜湖は今日も上機嫌だ。

「・・・大切な妻子に不便をかけるわけにはいきませんからね。それに族長代行の時より仕事と責任が少し増えただけですから。悔しいですけど、大騒ぎするほどの変化はないです。」

「ええ。あんたが立派に族長代行を一年以上こなしてたからとってもスムーズに世代交代が進んでるわ。

龍峰の時は大変だったのよ。先々代族長は高齢でかなり弱ってたけど、族長代行を置くことを頑なに拒んでたから。」

「え?なんで?」


「先々代は龍賢に後を継いでほしかったのよ。だけど龍賢が後継候補の最年少で、力は龍峰が一番だったから、龍賢を族長代行にする大義名分がなかったの。 龍峰は孔雀の奥様と再婚するかどうか何年も悩んでるうちに先々代に見限られてね。でも龍賢に2人目の息子が産まれたのは先々代が亡くなった後だったからどのみち間に合わなかった。」


竜湖は肩をすくめる。


「父は・・・龍栄殿が後継者になることを望んでいたのに、望み通りにならないものですね。」


「なんで落ちこんでんの?龍峰は一族からも取引先からも嫌われてた族長よ。あいつの望み通り龍栄が族長になってたら、あの子はとんでもなく苦労することになったわ。だから今、龍栄が一番喜んでるんじゃないかしら。」

「いや苦労って・・・龍栄殿自身は嫌われてないじゃないですか?」

「あんたねぇ。龍栄は今だに龍峰に頭が上がらないというか、怯えてるふしがあるのよ。だからあの子は嫌われてはいないけど、頼りにされてもいない。」


「不思議ですよね。とっくに龍栄殿の力の方が強いのに・・・」


龍希がずっと抱いている疑問だ。


「あの子はあんたには怯えてないから大丈夫。むしろ、あんたの方が龍栄に頭が上がんないから、とっても頼もしい補佐官だわ。」

「そんな俺を頼りないとは思ってもらえないんですか?」

「ええ。だって、あんたはもし龍栄と意見が対立した時には、龍栄を押さえつけて決定を下せるでしょ。」


「・・・さあ、そんな場面には出会ったことがないので。」


龍希は渋い顔で竜湖から顔を背けた。


「ふふ、まあいいわ。さてあんたの執事を増員しないとね。龍峰の執事たちは皆引退するって。やっぱり年齢がねぇ。」

「疾風から要望がきてまして、鳥族と、オラウータン族と猫族がいいらしいです。」

「鳥とオラウータンは分かるけど、猫の執事?」


「白猫の眠りガスのことを気にしてました。」


「ああ、さすがねぇ。分かったわ。年内に手配する。」

竜湖は納得して執務室を出ていった。



~族長居住スペース 枇杷の間~

先月から芙蓉は子どもたちと日中は本家の枇杷の間で過ごしていた。

ここは夫が成獣前まで過ごしていた部屋らしい。

本家のリュウカの部屋には来月中に移る予定だ。


「奥様~若様がお目覚めになりましたよ。」

ニニが起きたばかりの龍風を抱っこしてきてくれた。

三輪が居なくなってから、ナナとニニも子守のためにそばにいてくれるようになったのだ。

掃除や洗濯は本家の別の侍女たちがやってくれているらしいが、この部屋の掃除はナナがやってくれている。


「奥様、旦那様・・・いえ族長の新しい執事たちがご挨拶したいそうです。」

ちょうどいいタイミングでナナが呼びに来てくれた。

「ええ、行くわ。」

芙蓉は近くの応接室に向かった。

子どもたちはクク、シュン、ニニがそれぞれ抱っこして連れてきてくれている。


「芙蓉!」

芙蓉が応接室に入るなり、夫が笑顔で駆け寄ってきて芙蓉の腰に手を回す。

「新しい執事が揃ったから紹介するよ。」


「奥様、はじめまして。オラウータン族のりゅうと申します。」

執事服を着た雄のオラウータンの獣人が頭を下げる。


「トンビ族のサーモと申します。どうぞお見知りおきを。」

こっちは執事服を着た雌トンビの獣人だ。


「黒猫のポートでございます。」

執事服を着た短毛の黒猫獣人が優雅にお辞儀した。顔の感じから雌っぽい。


「疾風を入れて4人になった。芙蓉たちの警護や側仕えはサーモとポートにさせるからな。」

「よろしくね。」

芙蓉は笑顔を作って新しい執事たちに声をかけた。


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