アズライトの夢

月見

第1話アズライトの夢

懐かしいはずもないのに手に馴染む、私の石のような温かくもつめたくもなく、不思議な感触を感じた時に。


それは、十円

だからそれは、十円だよ、買うのかい?


冷やかしかと言う鋭い目に、手を離して癖でポケットに手を入れたらたまたま小銭の音。

取り出してみたそれを、店主は毎度ありとさらっと攫って。私を店外に押し出すと鍵を閉め、閉店表示に差し替えた。



外から見ていただけのつもりだったのだけど。いつの間にやら入って近付き、手に握っていた小石。何度も手から外してみるのだけど、握らないとまた落ち着かずすぐに、触りたくなり、せめて握らないでいようと指先で摘みポケット中で終始転がしてしまう。


流石に大人になって、石をチラチラ見ながらにぎにぎ歩くなんて不審な人みたいだろうと、足早に家への帰路を辿る。


早く、どうしてもこの石をじっくりと眺めてみたくて、急く。周りの視線も今日は氣になるし、石を人にも見せるといけないような、そう、石と目があってから。


まるで、鏡一枚抜けた先にありそうな、時間も人も似て異なる世界に入り込んでしまっているように。

時間はやたらのびたり、縮んだり。

だいたい、自分いつもと見向きしなかった年季の入ったなお店に入ったのも。

十円お釣りになる、珍しい九十円で缶コーヒー買える自販機を見つけ、嬉しくて買ったのも。


やらない事をやって、手に入れた石に振り回されているのか、導かれているのか。

それとも、全て気のせいなのか、しら。




連れ帰って来た石をとりあえず洗って。

インターネットで似た石の画像を探す。

ありすぎ。わからん


疲れた体に疲れ目が、痛い。


何か謎でも秘めていないか、解読したいと思って眺めて触れ、石には力があるって言う話を誰がしたのを思い出し。


石の種類が分かればこんな、惹かれる理由がわかるかと調べ出したら。広告ばかり、こぴーしたかのように語尾以外似た記事ばかり。


大体、青いにも、色んな青があんだよな。

普段ならポイと放る癖がでかけて、やめて、柄じゃないが手離せず。

そのまま握って、寝る事にした。

石におやすみ、なんて言う自分を遠くで眺めるような、現実味が無い掴めない、まだ世界の変な感触が。


目覚めて、何時もに戻ってこないかと。



声が。

耳に。


『色を映して』


その声に応えるよう、視界が深い群青色になり、視界が戻ると僕は宇宙から地球を見ていた。

背後にいる誰かと2人で。


そして。

地球に吸い込まれ、日本に吸い込まれ、両親の居る家に吸い込まれ、写真でしか見た事ない、祖父母や物心つく前に住んでいたらしい家の室内が赤ちゃんになった自分の眼に広がり。


そこからは巻き戻しビデオの早送りのように早かった。

小学生、高校生、社会人、そして、今を飛び越えた少し先。優しい眼差しで見る未来のパートナー、と我が子かな。

彼らの顔は逆光のように見えないが声が。

「待ってるよ」



耳が気持ち悪くて目が覚めた。

濡れたのは、涙のせい。擦り拭いた手が空で、慌てて石を探す。

すぐそば。

耳元で日差しが当たり光っていて。


まさか、夢の……。

と言う瞬間。目覚まし時計が三様に鳴り響く。


急がないと。

ち、こ、く。だ!




無事いつもの電車に乗って、運良く座席に座れた時。

我に返り。

「あ。」

氣付いてしまう。石持って来ていると。


そして。

目覚まし時計を止める前。

何が大切な夢を見たことまでは、思い出したけれど。



何の夢だった?あれ。


美しい、その感触はあるのに。

中身は綺麗に忘れた事に呆然。

何度手繰り寄せても、今、夢は戻って来ないようで。


だけど。

懐かしい、何か。



電車は進み時間も進むはずなのに。

今日も僕は、白昼夢の中にいるように。


記憶が怪しく、実感もなく。何故か。

大事げに小指の爪サイズの小石をにぎにぎしていて、確かに昨日とも一昨日とも違う服違う人と、車両に居る。


ただなつかしい、誰かが待つ何処かへ。

向かう道にいる、そんな予感携えて


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