第5話 森林地帯捜索
飛行魔法を覚えた俺は、森林地帯の上空を飛行していた。
影島あおいの日記に日本に帰る手段は記載されていなかったし、念のため調べた遺跡の中にもそれらしい手がかりは何もなかった。
こうなってはもう覚悟を決めて、この地で生活するために必要な物を集める事にしたのだ。
そのついでに日本に帰れた時に必要となる財宝も探すのだ。
そういう訳で今、森林地帯の上空を飛行していた。
実はあの後、霊木の実に杖を通して魔力を込めると、別の使い方が出来る事が分かったのだ。
まず火魔法を使う杖を経由して魔力を込めると2cm位の赤色の玉になり、これは衝撃を加えると爆発するのでグレネート弾として使えるのだ。
次に土だが、これは茶色の玉になり、衝撃を加えると白い煙をまき散らすのでスモーク弾となった。
そして雷は、白色の玉になり衝撃を加えると強烈な閃光を発するのだ。
それと水は消火をするための玉になった。
それからちょっと実験で霊木の実に小さな穴を開けて、その中に魔素水泉で見つけた水茎草の根を細かく砕いて入れてから、土の魔力を加えるとそれは緑色になり催涙弾のような物に変化した。
ちょっとした武器が出来ると、今度は発射装置が欲しくなった。
そこで財宝を探すついでに、スリングショットに仕えそうな材料等も一緒に探していた。
「金銀財宝ざっくざくぅ~♪ 持って帰って店を出すぅ~。ついでに塩やらゴムも見つけ出すぅ~」
俺は上機嫌で、森林地帯の上空から遺跡とかを探しながら低空で飛行していた。
自分で空を飛ぶという感覚は、とても新鮮で楽しかった。
それから面白い魔法として、エナジードレインというものがあった。
これは相手の魔力を奪うもので、これはダイビンググローブの内側に張り付けておいた。
こうしておけばグローブで触れば相手の魔力を奪い取り、仮死状態にすることが可能なのだ。
そして緑一色だった地面に白い場所が現れた。
そこには雪が積もったような木があった。
いやこの場所だけ冬というのもおかしいので、雪ではないのは確かだ。
ゆっくりと近づいてみると、突然木の枝が動き出し白い雪の玉のような物を猛烈な勢いで放ってきた。
それはまるで複数のマシンガンで弾幕を張ったみたいに、無数の弾が俺に向かって飛んできており、とてもじゃないが避けられる時間も空間も無かった。
え、ここでゲームオーバーなのか?
こんなあっさり殺されてしまったら、地球のどこかでシェリー・オルコットに腹を抱えて笑われてしまうだろうが。
そして弾が命中する寸前に見た光景があの忌々しい女の顔だった事が、余計に癪に障った。
人間の自然な防衛本能で顔の前を両腕で覆っていたが、何時まで待っても弾が体にめり込んで来なかった。
あれ? 俺はゆっくりと両腕を下ろして周囲を見ると、目の前では無数に飛んで来る物体が俺の手前10cm位のところで弾かれていた。
そこには緑色をした魔法陣が現れていて、どうやらこれが魔力障壁という魔法の効果のようだ。
そして弾かれた弾は俺の周辺に積もっていたので、その1つを摘まんで見るとそれは、中心に黒い種がありその周りに白い羽が覆っていた。
羽の部分はとても弾力があり、綿のような感じだった。
気が付くと俺への攻撃は止んでいた。
効果が無い事を理解したのか、弾が尽きたのかのどちらかだろう。
だが、これがあればあの石だらけの遺跡に、フカフカのベッドが出来そうだった。
こんな貴重な綿を生産してくれるこの樹木を「大雪樹」と名付けてみた。
影島あおいもこの地で勝手に命名しているのだから、俺もやったっていいだろう。
俺は早速周りに積もっている綿を両手一杯に集めると、フカフカのベッドを思い浮かべながら遺跡に運んでいった。
次に見つけたのは見渡す限りの蔦が自生している場所で、周りの木々に巻き付いていた。
それは蛇が獲物に巻き付いて締め上げるような感じだった。
その蔦には先端に尖った刺が等間隔で並んで、まるで鋸の歯のようだった。
それは俺がじっと観察しているとズルズルと動き出した。
やがて自由になった蔦は、鞭のようにしなると俺を攻撃してきた。
俺は予め距離を取っていたので攻撃範囲外に居たはずなのだが、飛んできた蔦は俺の目の前で一旦止まると、それからいきなり伸びたのだ。
思わず両手で顔を覆ってしまったが、魔力障壁が発動しているのでその手前で弾かれていた。
どうやらこの蔦はゴムのように伸び縮みするらしい。
早速その構造が気になったので手に入れることにした。
まずは蔦を切るため風の魔術を刻んだ霊木の枝を取り出すと、風の魔法を放ってみた。
サバイバルナイフは貴重なので、こんなところで駄目にする訳にはいかないのだ。
だが、太い蔦は簡単には切断出来なかった。
仕方がないので、蔦を切断出来るまで風の魔法を連射していった。
一度では切断できなくても繰り返し切り付けると、流石に耐久度が下がり切断することができた。
俺は他の蔦からの攻撃を避けながら、切断した部分を手に取るとそのまま攻撃範囲外まで後退した。
手にした蔦はまるで蜥蜴の尻尾のようにぴくぴく動いていたが、両手で掴んで引っ張ってみるとやはり伸びた。
そこで表面をサバイバルナイフで削り取り、その薄皮を摘まみ引っ張るとやはり伸びるようだった。
これならスリングショットの紐に使えそうだ。
遺跡への帰り道、今度は灰色に見える部分を見つけた。
そこはかなり広範囲にわたって枯れ木しかない場所だった。
木が枯れる原因として何らかの毒ガスが噴出しているのかもしれないと思い、手で鼻と口を覆うと、慎重にその場所に降りて見ることにした。
そこからはガスの噴出も無く、地面にも特におかしなところは無かった。
理由も無く枯れているとは思えないのだが、目に見える異変はどこにも無いのだ。
不思議に思いつつも、原因が分からないので探索を終えて帰ることにした。
そして遺跡に帰る前に泉に寄って手と顔を洗っていると、俺に話しかける声があった。
「やあ、久しぶり」
俺は声がした方を見ると、そこには体長30cm程の小さな人型が居た。
だがその人型の背中には2枚翅があり、その翅は根本が白く先端に行くほど緑色が濃くなり、黒色の放射状に延びる等間隔の線があった。
え、この世界では小さな人型も喋るのか。
だが、久しぶりと言われても初見ですよ。
きっと誰かと間違えているのだろう。
「いや、初めてだと思うよ」
「ふうん、そうなんだ」
俺達は無言で見つめ合ってしまった。
そこで挨拶をするのを忘れていた事に気が付いた。
「あ、初めまして・・・」
そこで俺は、本名を名乗るのは拙いのではないかと気が付いた。
だが、この世界の名前がどうなっているのか、さっぱり分からなかった。
そして思い出したのは、あの保護外装のマジック・アイテムについていた記載だった。
影島あおいが作ってくれた現地語であるバンダールシア語を日本語に変換する辞書で、マジック・アイテムに記載してあった文字を俺流に翻訳した言葉が、ユニットI、ガーネットだったのだ。
そこでユニットを女性名のユニスに変えて使う事にした。
「初めまして、俺、いえ、私はユニス・アイ・ガーネットです」
俺がそう言うと、目の前の蝶はくすっと笑ったような気がした。
「私はロムよ」
それだけ言うとロムは消え去ってしまった。
俺は一体何だったのだろうと首を捻ったが、それ以上気にせず遺跡に戻ることにした。
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