第3話 遺跡の外
狭い石造りの階段は、真っ暗で何も見えなかった。
一歩一歩慎重に降りて行くと、光りの先にはドーム状の空間が広がっていた。
円形の外壁は石で出来ていたが、地面は土だった。
そして中央には、広葉樹のように枝葉を広げた1本の木が生えていた。
どうやらあれが霊木らしい。
霊木は幹の太さから数百年は生きているようで、横に伸びた枝からは林檎のような実が沢山成っていた。
日記には、実は食料になり、枝や葉それに根は魔法の触媒になると書いてあった。
試しに実を1つ捥いで食べてみた。
シャリっといい音がして、味は林檎に似ていて美味しかった。
そして実を捥いだ枝を見ると、そこには既に新しい実が成っていた。
同じように葉を摘んでみると、やっぱり直ぐに新しいものが生えてきた。
どうやら直ぐに再生するらしい。
俺は霊木の枝や葉、根それに実を採取すると、それをテクニカルショーツのポケットに入れていった。
採取してきた霊木の枝や葉を早速加工してみる事にした。
まず枝だが、こちらは相手を攻撃する魔法の触媒となるようで、サバイバルナイフで不要な枝や節を削ぎ落し杖になるように加工していった。
そして日記に記載してあった象形文字を1種類ずつ刻み込んでいった。
これで火、水、風、土、雷、氷の魔法が使えるようだ。
次は肉厚な葉で、防御や支援等の魔法の触媒だ。
こちらには魔力障壁という魔法を刻んだ。
保護外装が破けると死んでしまう俺には絶対必要な物だ。
それから次は、影島あおいの忠告に従って重力制御魔法を刻み込んだ。
霊木の葉は表面に無数の髭のような物が付いているので、そのままインナーの内側に張り付いた。
最後に霊木の根だが、これは根の中に含まれる樹液が治癒ポーションと同じ効果を発揮するようだが、怪我を負う事が出来ない俺には必要の無い物だった。
そして出来上がった杖の試射のため遺跡の屋上に上がり、周囲を見回すと鬱蒼と茂る木々が直ぐ傍まで迫っていた。
その木に風魔法を刻んだ枝を向けると、魔力を流すイメージを込めてみた。
すると杖の先に藍色の魔法陣が現れ、そこから何かが放出されたような感じがすると杖を向けた先にある木の枝や葉がはじけ飛んでいた。
一通り実験が済むと、今度は日記に記載してあった泉に行ってみる事にした。
そこに行けば、この保護外装の外見を水面に写す事が出来るからだ。
そして遺跡から一歩森林に足を踏み入れ、直ぐに回れ右をして帰ってきた。
遺跡の周りは密林と言っても良い程で下草が生い茂り足に絡みつくので、とてもじゃないが歩けないのだ。
この状況では、影島あおいも歩いて泉まで行くはずが無いのだ。
何か別の方法があるはずだと再び日記を読み始めた。
そこでやっと必要な記述を見つけた。
そこにはこう書いてあった。
◇◇◇◇
それにしてもこの大森林の中を歩くことは、とにかく大変ね。他に良い方法を考えなくては、水浴びも満足にできないわ。
そうだ、空を飛ぶ魔法だってあるはずよ。
・・・・・
う~ん、飛べる事は飛べるけど、餌と間違えてドラゴンとかが襲ってくるのよね。何か方法はないかしら?
そうだ、地球でも自身の体を大きく見せる事で相手を威嚇するのだ。大きな羽があればドラゴンも餌とは思わないはず。私って天才。
◇◇◇◇
俺は日記にあるとおり飛行魔法と、魔素で羽を付けるのは擬態という魔法で出来るらしいので、その2つを霊木の葉に書き込むとそれをインナーの内側に張り付けた。
そして屋上まで来るとそこでまず先に擬態の魔法を起動させるため、蝶の翅をイメージしてみた。
鳥の羽だと、両腕が羽になるハーピーという魔物になりそうだったからだ。
すると背中から大きな二枚翅が現れて、大きな蝶に擬態したようになった。
それから飛行と擬態の魔法を発動すると、俺は上空に舞い上がった。
そこで感じたのは体が重たいという事だ。
地球でも鳥や昆虫等空を飛ぶ生物は体を軽くする工夫をしているので、重力制御魔法で重量をゼロにして飛んでみる事にした。
すると今度は簡単に浮くのだが、どんどん上昇して行ってしまうし、風に煽られてしまうのだ。
何度かやっている内に飛行に最適な重量が分かってきたので、それでようやく上手く飛ぶことが出来た。
これでやっと日記に記載してある泉に行けるようになったのだ。
遺跡から舞い上がると遠くに大きな山脈が見える他は、鬱蒼と茂る木々しか見えなかった。
こんな中から泉を探すとしたら、本当に泉の真上にまで来ないと分からないだろう。
こうなってくると情報は本当に大切だなと痛感していた。
泉の上空に到着するとそれまで緑一色だった地面が、突然ぽっかりと穴が開いてそこに水が見えた。
泉は透明度が高く底の砂も良く見えており、底の砂が巻き上がっていることから、あきらかに地下水が湧き出しているのだと分かった。
泉から流れ出した水は小さな川を作っており、そこには日記に記載してあるとおりわさびのような植物が自生していた。
これは影島あおいが現地人に聞いていたようで、水茎草と言うそうだ。
これは根の部分に大量の魔素を含む薬草で、抗菌効果があり、体内に入った菌を殺すそうだ。
一口食べてみると、やはり鼻につんとくるあのわさびだった。
これは調味料としても使えそうだ。
次に流れている水はとても綺麗で、そのまま飲んでも問題なさそうだった。
試しに両手で掬って飲んでみると、とても美味しかった。
日記にはこの水は魔素を含んだ魔素水と書いてあり、植物や動物の成長速度を速める効果があるという事だった。
ちなみに高濃度の魔素水を与えると、植物は別の物に変化するらしい。
これは魔物も同様だそうだ。
そこでよくあるパニック映画とかで、マッドサイエンティストが災害級モンスターを作り出す場面が脳裏に浮かんだので、首を横に振ってその嫌なイメージを振り払った。
魔素濃度を高める方法については日記に記載は無かったが、興味は持たない方がよさそうだ。
泉の周りには色々な植物が自生しており、日記の記載を思い出しながら見て行くとリカバリー草という物もあり、これはMPポーションの原料となるようだ。
他にも使えそうな植物を探していると、甘味大根と言うのもあった。
こちらは根の部分に甘い物質が含まれ、根を絞って汁を煮詰めると砂糖が取れるようだ。
そして周囲の探索も終わったので、今の俺にとって最も興味がある問題を片付けることにした。
そう、俺のこの保護外装の外見だ。
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