11
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この夜をきっかけに、あたしは悪魔と寝るようになった。
文字通り、ベッドに並んで横たわるだけだ。
今までどんな男も嫌悪感しか感じなかったのに、悪魔に触れられるのは不思議と嫌じゃなかった。悪魔の肌はどんな熱帯夜でもひんやりと乾いていて心地よかったから。
不安や怒りが頭をもたげる夜でも、悪魔に抱かれているとそれはしゅうとしぼんで消えていった。そしてあたしは、泣きたいほどに安堵する。
悪魔の艶やかな黒髪がさらさらとあたしの頬に落ちる。色素の薄い、あたしのはちみつ色の髪と交じる。
悪魔は時おり髪や頬に触れたが、そのしぐさもとても優しかった。そんなふうに他人に大事に扱われたことのないあたしは、これくらいなら許してもいいかなと好きにさせている。
悪魔はあたしいいつけを守ってそれ以上のことはしなかった。なんだか従順なしもべを手に入れたようで、気分がよかった。
そんな悪魔をあたしは完全に信頼しきっており、寝る前に彼の腕の中で参考書や単語帳をめくるのが習慣になっていた。とても落ち着けて、集中できる場所だった。しかもおもしろいようにするすると頭の中に入ってきて、いとも簡単に記憶に刻まれる。たぶん悪魔が魔力を使ってくれているんだと思う。
おかげで迷走していた成績はうなぎのぼりだった。
受験勉強の天王山である夏休みが始まると、あたしは家からほぼ出なくなった。
学校主催の補習にも図書館にも行かず、ほの暗い自室にこもりきり、どっぷりと勉強にのめり込んだ。
悪魔の腕の中にいると、時間も、自分がどこにいるかも意識から消え、疲れもしらず、集中力が極限に高まっている状態が何時間も続く。いわゆるゾーンに入るというやつだ。
あたしはたびたび自分と悪魔の境がわからなくなった。
夏休みが終わり、二学期が始まってすぐのテストでは、順位を取り戻すどころかトップ圏に躍り出た。
担任からは、志望校のレベルをあげたらどうかと言われるようになった。
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