4
「結城! 外ばかり見ているんじゃない。授業に集中しろ!」
悪魔の横顔をうっとりと見つめていると、いきなり怒鳴りつけられた。
朝のホームルームが終わり、授業が始まる時間だった。一限目は数学で、声を上げたのは数学教師の
あたしはこの教師に心の底から嫌悪感を抱いていた。あたしだけでなく生徒全員に嫌われている。常に苛々していて、怒鳴り散らかしているみっともない大人だった。あからさまに生徒を下に見ていて、本当ならばこんなところでガキの相手などしてるはずじゃなかったという腹の底が見え見えなのである。
思い上がった小物。それが生徒たちの、この教師への評価だ。
そしてこの数字教師には、最悪すぎる渾名が付けられていた。ハラスメン
「おい、立て。結城」
あたしは無言で立ち上がる。中島はつかつかとあたしの席の前に来ると、ねちっこい、下卑た視線を無遠慮に向けてきた。
(こいつ、何しに学校に来てるんだ。教師のくせに)
ここは女子高だ。過敏すぎるくらいの女子たちが、あんたの目線に気づいていないとでも思っているのか。気づいていようがきっと構わないのだ。あたしたちのことなど、馬鹿で無力なガキとしか見ていないのだろうから。
くどくどといつもの説教を繰り返しながら、中島は太股あたりから舐めるように視線を上げてゆく。
一方で、あたしはこっそりドブネズ
(もう嫌……逃げ出してしまいたい)
ひっそりと拳を握りしめたその時。――ふと、背筋が凍りつくような
この感覚――悪魔を召喚した時と同じものだ。
とっさに窓のほうを振り向き、息を飲む。そこに、悪魔の姿なかった。
「よそ見するな結城!!」
中島の怒声に、あたしはぱっと顔を正面に戻した。うつむきがちに、目だけで左右を見わたす。悪魔の姿はどこにもなかった。なのに、禍々しい気配だけは濃厚に周囲に漂っている。
(どこに行ったの……?)
絶えず込み上げる
全身の緊張が解けて、身体がいっきに軽くなる。浮遊感さえおぼえるほどだった。
(何……今の……)
なかば呆然としながら額の汗をぬぐおうとしたが――手が動かなかった。
突然のことに、頭が真っ白になった。手だけでなく、身体ぜんぶが金縛りにあったように動かない。呻き声さえ上げられなかった。
(これは……まさか、悪魔のしわざ……?)
そう思った瞬間、微動だにしなかった手が勝手に動き出した。机の横に掛かった通学鞄をつかみあげ、ファスナーを開き、机の中から教科書やノートを次々と鞄につっこんでゆく。
あたしは呆気にとられてそれを見ていたが、すぐに血が
悪魔に身体を乗っ取られたのだ。
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