第19話 華麗なる技!超天才、闇野美琴の真の実力!!

鐘はない。観客はジャドウとムースだけの夜の決闘だが、流動人間は満足だった。

最強の相手と思う存分戦うことができるからだ。

流動人間は小手調べとばかりに八つの腕を作り出して怒涛の打撃を見舞うが美琴は軽々と回避すると、彼の腕を掴んで捻り束ねると一本の太い腕にしてから背負い投げで勢いよくマットに叩きつける。更に腕をとって立ち上がらせてロープに振って反動で返ってきたところをハンマー投げを食らわせる。

二度、三度、四度と投げてから軽快なステップを踏んで相手が立ち上がるのを待つ。

流動人間が突進してきた力を利用して持ち上げると、やり投げのようにコーナーの鉄柱めがけて投げつけた。恐ろしい勢いで投げ飛ばされた流動人間は頭から強固な鉄柱に激突するが、頭を凹めただけで戦闘は続行できる。

鉄柱に刺さったままの彼を美琴は引き抜き、逆方向の鉄柱へ放る。

こうして、合計四方もの鉄柱に激突させられてから、上空に投げ捨てられ、首を両足で挟まれ、胴を掴まれパイルドライバーで脳天を激突落下させられる。

技を解除されると、流動人間は倒れるも、すぐに立ち上がって後退し間合いを取る。

先ほどから脳天一点集中攻撃を行っている。

決めた箇所だけを徹底して狙うのが優れた格闘家の戦術なのだ。

美琴は容赦なく彼の顔面に膝を叩き入れ、更に屈めた足を思い切り伸ばして草履で喉を貫く。

つま先による蹴りは普通のプロレスでは反則のひとつなのだが、今回は違う。

彼がつま先蹴りで喉に空いた穴を修復すると今度は間髪入れずにラリアットが飛んでくる。

細腕ながら完璧に喉に食い込んだ強烈な一撃でロープに背中から飛ばされ、アームホイップで投げられた。仰向けになっていると、腹を思い切り両足で踏みつけられ、腹の弾力で跳躍した美琴は錐もみ回転の頭突きをしてから、トンボ切ってコーナーへ移動。最上段に背を向けた状態で乗るとムーンサルトプレスを浴びせる。

美琴は軽量だが空中で十分に回転を加えて体重を浴びせるので、流動人間は悶絶。

構えをとって相手の出方を待つ。これほどの攻撃を矢継ぎ早に繰り出したにもかかわらず、美琴は息ひとつ乱してはいない。

試合を観戦していたジャドウは額に脂汗を浮かべて苦笑しつつ感想を口にした。


「やはり美琴は天才ですな。それ以外に奴を言い表す言葉がみつからぬ」

「美琴様はいつだって最強ですわよ! 流動人間様に不覚を取るはずがありませんわ!」


リング上では美琴が流動人間の四肢をロメロスペシャルに極めて痛めつけている。

が、彼はその場で四肢を千切って技から逃れ空中で再び生やして地面に着地。

美琴は残された手を投げ捨ててから素早く彼の背後をとり得意のジャーマンスープレックスに持ち込んで脳天をキャンバスに叩きつけてから、身体を移動させジャパニーズレッグロールクラッチホールドに極める。



「浅いっ」


ジャドウの声が響く。その指摘は的確で軽く力を込めただけでクラッチから逃れた流動人間は再び空中に跳躍。美琴も跳躍し両者の視線が交錯する。

流動人間の打撃を躱して再び背後を取り、今度は胸の下よりも低い腰を掴んでの美麗で高威力のスープレックスを炸裂。

何度目かの頭部の凹みを治したのを見計らって、美琴は彼の腕をダブルアームに捉えていた。


「えっと、どうしましょうか……?」


少しだけ思案顔になってから地面を強く蹴って飛ぶと、流動人間を股に挟んで動けなくしてから、そのまま勢いよく彼の顔面を地に叩きつけるペディグリーだ。

グシャリと潰れる音がして流動人間の何もない顔が陥没している。

すぐさま元に戻して美琴と首相撲に突入するが、さして力があるわけでもない流動人間は押し負けてプレーンバスターに捉えられて轟音と共にキャンバスへ背中から落下した。

先ほどの電撃のダメージが尾を引いているのかすぐに立ち上がれない状況の中で、美琴のダブルニードロップが迫る。

間一髪で転がって避けると数歩だけ後退して構える。

呼吸する必要がないはずの人工生命体の動きが少しずつ鈍り始めてきていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る