第17話 三時のスウィーツ作りとメープルの作戦をジャドウは観察する。

美琴が会長室から散歩に出かけてからの数時間の行動を、ジャドウは水晶玉を通して観察していた。美琴がスターとアイスを食べながら一方的な会話を聞かされ、彼から別れてからメープルに会ってアパートへ歩き出すのを見て口角を上げると、グラスのワインを飲む。

観察を続けている間に瓶の半分以上は飲んでしまっているが、彼が酒飲みを止めることはない。

スターの次に大事なものは酒であり、これを失うとジャドウは酷く落胆する。

アパートに入った美琴はいきなりムースにダイビングハグをされて、アパートに招き入れられる。ジャドウは残った瓶の酒を飲み干し、アパート内部を透視して観察を再開すると、三人はパンケーキを焼いているところだった。

完璧な焼き色のパンケーキを白い皿に山のように重ねてから、たっぷりのホイップクリームと大きな苺を乗せ、メープルシロップをドバドバと垂れ流している。

それを見たジャドウは真剣な眼差しを向ける。


「焼き色もよし。苺もシロップも上質のものを使用している。

クリームの泡立てもよかろう。

間食として作る分には合格点といえるだろう。量が多すぎる点を除けばだが……」


スター流は戦闘と同等以上に料理に力を注いでいるから、料理の出来栄えや味には本来の目的を忘れてしまうほどにジャドウは見入っていた。

ブドウ酒で喉を潤してからケーキを食べる三人の会話に耳をすませる。


「やっぱり美琴様と食べるスウィーツは最高ですわ!」

「喜んでいただけてわたしも良かったです。メープルさんもありがとうございます」

「どういたしまして。でも、やっぱり女子同士で食べると落ち着くわ。それで、美琴はこれからどうするの?」

「夜に流動人間さんと戦うつもりです。ジャドウさんによると、彼は夜中に活動を本格的にするそうですから。朝日を浴びると消滅するそうなので、それまで持ちこたえるのがわたしの役目です」

「ジャドウも酷な役目をおしつけたものね。でも彼なら指示しそう」

「美琴様、わたくしもご一緒してよろしいでしょうか? 美琴様だけでは不安で……」

「ムースさん。気持ちはありがたいのですけれど、あなたと流動人間さんは能力の相性が」

「美琴はムースの能力の相性的に不利だと思うの?」

「はい。彼は軟体ですからムースさんの拷問器具は通用しません」

「そうとも言い切れないわよ。

私の考えたところ、ひとつだけ彼に通用する器具がある」

「えっ?」


思わぬ言葉にムースと美琴はそろって顔を見合わせてから、メープルを見た。


「電気椅子よ。水は電気を通しやすいもの」

「確かに……! でも軟体なら拘束具をするりと抜け出してしまうおそれもあります」

「そうならないようにするのが、美琴、あなたの役目よ」

「いったいどうすればよいのでしょう?」

「ちょっと危険だけど、いい? よく聞くのよ」


メープルは小声で美琴の耳に何事かささやく。美琴はうんうんとうなずいてからムースの耳元でそれを伝えた。


「美琴様、本当によろしいのですか?」

「かまいません。思いっきり発動してください!」

「承知しましたわ。大好きな美琴様のためですもの、わたくし非情に徹しますわ! そして必ず流動人間という最高の玩具を破壊してご覧にいれますわよ!」

「その意気ね。それじゃあ美琴はジャドウに報告してきなさい。彼もたぶんビックリすると思うから」


思わせぶりなメープルの言動を最後にジャドウは水晶玉の観察を止め、唸る。


「さすがはスター流の知将メープルよ。対戦もない流動人間の弱点を見抜くとは。

だが、吾輩も驚かすほどの手というものが気になりますな。さっそく、美琴を呼び出すとしよう」

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