本人不在

  歯磨きが本当に面倒。平和を呼びかける運動を見ても、原爆で百万人一瞬に叩き潰したって、たった一人の歯の痛みが治らなけりゃ、何が平和だよ馬鹿が、と思う。

 もらったお土産でさえ、ああ、歯痛に泣く。蹴とばすぞ。このバカ。

 十二の歳の頃か。俺は、歯痛によって、十日間、癇癪を起こし、母は親切なって枕頭に来て、タライに氷をいれ、タオルをしぼり、五分間おきに俺の頬にのせかえてくれたり。怒り骨髄に徹しても、色にも見せず、貞淑、母よ、天晴れだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る